11 俺たちの過去

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11 俺たちの過去

「僕が、義理の父親になるかも知れないという話は、晃夜から聞いていたのかな」 「はい。それは、聞いてました」  眞昼と繋がれた手の平に、ギュッと力が込められる。ふう、と社長は小さく息を吐いた。明るい表情とは違った、痛みに耐えるような微笑みに惹きつけられた。 「君たちが生まれた頃、僕は、まだ高校生だった」  社長はゆっくり語り始めた。 「当時香帆さんは、すでに社会人だったけれど、それでも若すぎる二人だった。僕は十八歳になったばかりで、香帆さんに対する気持ちは真剣だったけど、僕の父から猛反対を受けてね。それを察した香帆さんは、僕の前から姿を消して君たちを出産したんだ。僕があらゆる手を尽くして香帆さんを捜し当てた時、香帆さんは一歳の君たちを抱え、たった一人のお母さんを亡くしたばかりだった。特に僕の父は厳格を絵に描いたような人だったから、僕は母と協力して、香帆さんと君たちを匿ったんだ。父とは名乗れなかったし、入籍もできなかったけれど、君たちが四歳になるまで、僕は君たちの家に通ってた。とても懐いてくれて、ほんとうに可愛くて、幸せだったなあ。特に眞昼は甘えん坊でね、僕の手を握りながら眠っちゃったりしてさ。でも、僕が会いに行けない日は、君はいつも、彼と手を繋いで安心した顔で眠っていたよ」    社長は話の中で、何度も「君たち」と言った。「君たちを出産」「一歳の君たちを」と。そして「彼」と。  眞昼の中で、激しい波と穏かな波が交差し、混じりあい、深く温かい場所へ落ちていくような、不思議な感覚を体験していた。
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