136人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
自分は社会の役に立っているのか、誰かのためになっているのかとか、とりとめのないようなことが頭に浮かび、虚しさでいっぱいになる。
この男性の目にも、きっと自分は頼りなく映っているんだろうなと思う。
男性は軽く会釈すると出口へ向かった。
ほんの少し言葉を交わしただけなのに、なんだか圧倒された。仕立ての良いスーツはしわひとつなかった。あんな風に、あの若さでスーツを着こなしている男に、羨望の思いを抱かずにはいられなかった。
自分が女性だったなら、きっとハートの溜め息を吐いていたことだろう。
母が突然出て行った後も、しばらく気分が降下気味になり、鬱々とした思いを引きずりながら仕事に出ていた。その時の気持ちに似ている。
顔立ちこそ似ていても、母のような華やかさを受け継がなかった眞昼は、勉強も運動もそこそこ、取り立てて得意なことがない。
強いて言えば、人が嫌がるような仕事を淡々とこなすのが苦ではないくらいだろうか。
あの男は、仕草から立ち振る舞いすべて洗練されていた。同年代でありながら自分よりも多くのことを経験し、吸収し、学んできたのだろうか。
なんだか、穴があったら入りたいようないたたまれない気持ちになってくる。
眞昼が複雑な思いのまま、ぼんやりとそのすっきりした背中を目線で見送っていると、自動ドアの前に立った男性は一瞬立ち止まり眞昼に会釈をした。
あわてて頭を下げて戻した時には、彼の姿はガラスドアの向こうへ吸い込まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!