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「そんなことより保高、親父に手え握られて、嬉しそうだったな」
「は?」
ふいっとそっぽを向いた晃夜の顔は、思い切りふて腐れているように見えた。まるで、自分の父親に嫉妬しているみたいだ。
「え、違うよ、だって社長があんまり柊崎に似てるから、だから」
「俺に似てるから?」
カッと顔が熱くなって、口ごもる。眞昼が必死に言葉を探してると、晃夜は「あっ、やべえ」と情けない声を漏らした。
「空港から香帆さんとラインしながらタクシー飛ばして、足がないの忘れてた。――ま、話が長くなるから丁度いいな。一駅分歩くか」
「うん……」
辺りはすっかり陽が落ちている。裏通りは人気がない。車も通らないから、晃夜と眞昼の足音だけが聞こえる。
眞昼は、思いがけず晃夜に会えて、こうして二人きりで歩いていることが嬉しかった。晃夜の父親である社長が、眞昼の父親だったという事実はまだ信じられないけれど。
一方晃夜は、父親が眞昼に話す内容を母から逐一メッセージアプリで知らされていたようだ。
「柊崎、俺たちってさ」
「ん?」
「二卵性の、双子なのか」
――晃夜がどんなに君を好きで、大切に思ってるか――
社長の言葉が、耳元でリフレインした。
「柊崎は俺の、弟?」
わずかな間を置いて、晃夜が答えた。
「そうだよ」
「そっか……」
悲しくて淋しくて辛くて。だから、すべて忘れてしまったのだろうか。唯一、晃夜の手の温もり以外。再会してから、晃夜はどんな気持ちで、眞昼の傍にいたのだろう。
兄を捜そうとする眞昼を、どんな思いで見ていたのだろうか。
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