11 俺たちの過去

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「俺のことはバレなかったの?」  晃夜はああ、と呟く。 「親父が後を継がない代わりに、俺が期待されてたからなあ。疑ってなかったんだろ」 「社長が継がなかったって……じゃあ、今の会社は社長が一代で? お祖父さんは何を経営してたの?」 「都心部のビジネス系ホテル。――二年前に祖父さんが亡くなったから、俺は権利の全てを、親父の弟――叔父に譲った。そして、水面下で親父と進めてきた、保高と香帆さんを迎えに行く計画を現実にした」  人気(ひとけ)がないのをいいことに、二人は手を繋いだままエレベーターに乗り込む。 「本当はあと一年早く、保高を迎えに行きたかったけど、仕事の先輩としての準備が必要だったからな。色々勉強しとかないと、教育係なんて無理だから」  眞昼はうん、と頷いた。 「柊崎、すごい努力したんだな」 「まあな」  たった一年で、あそこまで仕事をこなせるなんて、晃夜は本当に凄いと思う。眞昼は、鞄から鍵を取り出し、ドアを開けた。  バタンとドアが閉まった瞬間、強い力で引寄せられ抱き締められた。晃夜の匂いを近くで感じて、ホッと安堵のため息が零れた。  今だけは、彼を独り占めしても許されるはずだ。眞昼も晃夜の背中に腕を回し、ギュッと抱きしめ返した。 「もっと時間をかけて、少しでも保高に自力で思い出して欲しかったんだけどな」  耳元に晃夜の息がかかり、別の意味で背筋がぞくっとするが、ぐっと耐えた。 「……ごめん」 「あやまるなよ。――中三の時の俺はほんとにガキでさ、お前が俺のことすっかり忘れてたのがショックで、留学中はやけになって遊びまくったよ。半年くらいで止めたけど、でもやっぱり、頭の隅や胸の奥に常に保高の存在があって、それが俺の支えだった」
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