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きゅうっと胸がよじれるように切なくなった。
――今日は、柊崎に会えないのかな……
そう考えただけで、気持ちが急降下し始める。自分の気持ちを自覚する以前から、眞昼の毎日は、晃夜を中心に回っていたようなものなのだ。だが今は就業時間中、シャッキリとしなくてはいけない。
「保高くん準備できた? もう出るよ」
「あ、はい」
仕事のパートナーは、引き続き川村になった。眞昼は大股で歩く川村の後ろを、小走りで追いかけた。
社用車に乗り込み、助手席の眞昼がシートベルトを締めたところで、開口一番に川村が飲みの誘いをかけてくる。
「もう手首は直ったでしょ、だからさ、今日飲みに行かない?」
眞昼は左手首を摩った。確かに痛みも感じないし、ほぼ完治しているようだ。けれど……。
「えっと、すみません。家庭の事情で……予定入れられないんです」
エンジンをかけた川村の余裕の表情が怪訝なものに代わり、「家庭の事情? なにそれ」と呟く。
「はい。最近ちょっとごたごたしてまして。あの、家庭内が」
ええー、と間の抜けた声を発し、滑らかな動きで車は車道へ合流する。
「……ホントかなあ、もしかして、俺と飲むの避けてるの? また口説かれるかもって警戒してる?」
もちろんそれは警戒するつもりだ。
「いえ。それはちゃんと断るので気にしてないです」
「え、気にしてないの? 気にしてよー」
軽口をたたきながら、車はスムーズに流れていく。おかげで気持ちがほんの少し上昇してきた。
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