12 会えない日々

3/15

136人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
 きゅうっと胸がよじれるように切なくなった。  ――今日は、柊崎に会えないのかな……    そう考えただけで、気持ちが急降下し始める。自分の気持ちを自覚する以前から、眞昼の毎日は、晃夜を中心に回っていたようなものなのだ。だが今は就業時間中、シャッキリとしなくてはいけない。 「保高くん準備できた? もう出るよ」 「あ、はい」  仕事のパートナーは、引き続き川村になった。眞昼は大股で歩く川村の後ろを、小走りで追いかけた。  社用車に乗り込み、助手席の眞昼がシートベルトを締めたところで、開口一番に川村が飲みの誘いをかけてくる。 「もう手首は直ったでしょ、だからさ、今日飲みに行かない?」  眞昼は左手首を摩った。確かに痛みも感じないし、ほぼ完治しているようだ。けれど……。 「えっと、すみません。家庭の事情で……予定入れられないんです」  エンジンをかけた川村の余裕の表情が怪訝なものに代わり、「家庭の事情? なにそれ」と呟く。 「はい。最近ちょっとごたごたしてまして。あの、家庭内が」  ええー、と間の抜けた声を発し、滑らかな動きで車は車道へ合流する。 「……ホントかなあ、もしかして、俺と飲むの避けてるの? また口説かれるかもって警戒してる?」  もちろんそれは警戒するつもりだ。 「いえ。それはちゃんと断るので気にしてないです」 「え、気にしてないの? 気にしてよー」  軽口をたたきながら、車はスムーズに流れていく。おかげで気持ちがほんの少し上昇してきた。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

136人が本棚に入れています
本棚に追加