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好物のレア・ステーキを前にナイフを取るような、そんな顔をしていてよ、ラァイ。
吐息がかかるほど近くで、ラァイが、疵の入れ方を、思案している。
その思考をなぞるように想像してみると、さきほどとは比べ物にならないくらいのぞくぞくが、わたしを襲う。
わたしに疵を。ラァイ。
この、よろこびの瞬間を、忘れられないくらい、ふかく。
「……いいわ」
「いいの?」
「……思い切り……痛くして……」
◆ ◆ ◆
疵に挿れた核は、順調に育った。
わたしたちはぷくりと膨らんだ耳たぶで約一年の婚約期間を過ごした。
ラァイは顔もスタイルも良く、いろんな女の子に言い寄られていたから、この度の婚約では、随分たくさんの涙を絞らせたみたい。
ざまあみろ、だ。
核を埋めることは、からだへの干渉が強く、負荷がかかる行為だった。
疵が化膿して、核を取り落としてしまう子もいるし、化膿から熱と毒とを孕み、いのちを落とす子もいる。
その契りをもって婚約するのは、カップルにとって、一番の憧れだった。
若さの欲するなにもかもより互いだけを欲し、いのちがけで婚約に臨んだわたしたちのことを、もう誰も、邪険には出来ない。
覚悟が足りないと、見くびられるようなこともない。
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