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摘出手術から加工までは、専門の職人に頼んだ。
指輪が出来あがったという連絡を受けて工房に取りにゆくと、歓迎を受けるとともに、熱心に口説かれてしまう。
どうやらわたしの耳たぶで育てた真珠は、稀に見る良い出来だったらしい。
これは花珠だよ。数百粒にひとつの出来だ。ご覧、この照り、この巻き。もしやそうじゃないかと思って最優秀職人に鑑別してもらったら、母貝はどんな子だ、とすごい騒ぎになった。
君さえ良ければ、これ、買い取らせてもらえないか。
そう言って、職人はわたしの年収五年分ほどの金額にもなる小切手をちらつかせる。
サファイアでも、エメラルドでも、ダイヤモンドでも。
これだけあれば、思いのまま、店で買い、新居用の家財道具を買ってもお釣りがくるだろうと。
◆ ◆ ◆
「……それで、どうしたの」
ごちそうを平らげたあと、デザートの桃を剥きながら、ラァイが訊いた。
語り方が悪かったのかしら。
数百粒にひとつの確率、五年分の稼ぎ、と言っても、彼女は顔色ひとつ変えてくれなかった。
なにに対しても、情と関心の薄いひとだ。
ちょっとくらい、すごい、と褒めてくれたら、良いのに。
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