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 机に座って一人、することもなく一点を見つめていると、全員に連絡先を聞いてまわるぱっつん前髪の女子と、背の低い、髪留めがお花の女子が「よかったら明音ちゃんも一緒のグループになろうよ」とにこにこしながら話しかけてきた。入学して一週間、話したのはその二人だけだった。明音はそのとき携帯電話を買ってもらえていなかったから断るしかなかったし、グループになろうよと言われてもあの塊の中につっこんでいく勇気もなく、というか、誰がいくかよ、という気持ちでいた。つまらない今日の天気の話とかしてゲラゲラ笑うような人間たちとは、自分は違うのだと思っていた。  そうしてただ何もせずにしていたら、気づけば友だちなんてどこにもいないし、ひとりぼっちだった。食堂に走るスカートを横目に、一人で教室で弁当を食べた。かたわらにはいつも本があって、それだけが明音のよりどころだった。 「私は一人ですけど、本を読んでいますから」という、つもりだった。『つもり』でいても、明音の心は日々弁当箱ほどの枠に詰め込まれて、ちいさくなっていくようだった。学校に行きたくない、と毎夜、毎朝思った。早く卒業したいと、入学して二週間で思い始めた。それでも不登校だったり、サボりというのは明音の辞書には存在しないから、真面目に学校に通った。遅刻も欠席もしなかった。机の中にはいつも小説があった。図書室にだけ詳しくなった。  だから、母から転校の話を聞いたとき明音は、顔には出さずに喜んだ。そのころもう、自分の気持ちをおもてに出すことは難しくなっていた。転入試験のようなものがもちろんあるのだろうと身構えたが、手続きだけで良いらしい。田舎っぽいな、と一番最初に思ったことだ。
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