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 高校生二年目にしてはじまった青領中等学校高等部での生活はそこそこだった。   友達のつくりかたを知らなかったことを知った明音はそこでももちろん友達はできないが、どうしてか居心地は悪くなかった。広がる田んぼの風景がそうさせるのか、転校生だからという特別な気持ちでいられるからか。たぶん、明音が同じクラスになった万年空き机と化しているそれが、自分だけはぐれ者なわけではないと安心させてくれたのかもしれない。  最初のころは興味があった。明日は来るかもしれない、と一週間のあいだだけ思った。それから気が付いたのが、これが「不登校」というものなのだということで、そういう人が自分の世界に初めて存在した瞬間だった。  三年生になって、明音はまたその机と同じクラスだったけれど、もういつまでもその席は埋まることがないのだろうと決めつけて疑わなかったし、この学校に中等部からいた人たちはもっとずっと前からそう思っていたのだ。忘れ去られたというよりは空いているのが当たり前であったから、その机は教室の一番後ろ、窓際に長い間置き去りにされていた。これからもそうあるはずだった。  当たり前が当たり前でなくなる日はくる。世界中の電気が止まるとか、学校がつぶれるとか、同じくらいありえないことで、わくわくすることだ。順調に桜の花びらが日本から飛び散って、緑以外の色がなくなった五月。九夏かすみはしわ一つないぱりっとした制服に身を包んでそこにいた。窓際の一番後ろ、明音の隣の席。長い黒髪が窓の外の若葉と青い空に映えて、一枚の絵に見えた。
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