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「おはようございます。今日は五月六日、暦の上では、もう夏になっちゃいました」
若作りをした厚化粧の担任が、教壇の前に立ってそう言っていた。顔が白く塗られすぎていて首と違う色だった。五十を過ぎたおばさんが、なっちゃいましたア、とNHKの教育歌番組のおねえさんみたいな口調でいうものだから、明音の心のシャッターは閉じる。それでもかつて、ここまで期待のむけられた朝のホームルームはなかった。
「今日はしばらく学校をお休みしていました。九夏かすみさんが復帰してきました。みんな、びっくりしてるよね、ね! そんなわけで自己紹介をしてもらいましょう、パチパチ~」
担任にはしらけている教室のボルテージがゆっくりと上昇していく温度を感じる。九夏かすみは立ち上がって、背骨くらいまである黒い髪を左右に揺らしながら歩く。くるりと振り返って教室を見渡すと、きゅっとくちびるの端を上げて笑った。初夏にふさわしい、爽やかな顔のつくりをしていた。
「九夏かすみです。中学一年生から神隠しにあっていました。趣味はバドミントンで、特技は勉強です。みなさんぜひ仲良くしてください! よろしくお願いします」
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