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明音には、その冗談はウケを狙って外したように思えた。自分だったら恥ずかしくて絶対にできない。空気を読むことを知らないというか、明音とは生き方の違う人なのだと一瞬で理解した。つまり、関わるべきではない人間。その笑顔は明るすぎて、近づいたらうっ、としそうなくらいのまぶしさだ。にも関わらず、教室の空気は明音の思うのと別な意味でどこか異様だった。
たしかに九夏かすみの顔立ちは、秀でているわけでもないけど、美人なほうだった。でもこの教室の空気は、そういうふわふわした感じとは違う。
「みんなももう気が付いてると思うけど、かすみさんはなんとあの、九夏家の娘さんです。びっくりしたよね。先生もびっくりしちゃいました。でもそんなこと気にせずに、仲良くしてあげてくださいね。みんななら、心配ないね。それとかすみさんは教科書がまだないからお隣の明音さん! 少しの間見せてあげてね」
真っ白な顔に映える真っ赤な口紅が歪んで、担任が明音に笑いかけた。最悪の気分だった。気になったのは「あの九夏家」という言葉だ。明音は九夏という苗字も聞いたことがないし、「あの」がどのことを指すのかわからない。でもその言葉を担任が言ったとき、教室はテスト用紙が配られる前に似ているぴりっとした空気になった、気がした。
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