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真希は、埃ひとつ付いていないガラス製のテーブルに置いていたリモコンを取るとテレビのボリュームを上げた。
「その中には警察官も含まれており、犯人は車で逃走…現在も逃走中です。近隣の皆様は十分に警戒をして下さい、」
真希は寝転がったまま顔だけをキッチンに向け、ホットケーキを焼いている達也に声をかける。
「達也ーっ、なんか六本木凄いことになってるよーっ」
焼きたてのホットケーキを皿に移した達也は振り返り、
「なに?六本木がどうしたって?」
黒髪短髪の爽やかイケメンがフライパンを片手にキッチンに立っていた。
ジーンズだけを履いて上半身は裸だった。鍛え上げられたボクサーとしての肉体は逞しく、威圧的だった。ホットケーキがあまりにも似合わない。
「無差別大量殺人だってさー」
「はぁ?」
キッチンからリビングに移動した達也はテレビに目をやった。
アナウンサーが深刻な表情で画面に向かって注意勧告を続けている。
「今現在も犯人は逃走中です。近隣にお住まいの方は十分に警戒して下さい。繰り返します。今現在も犯人は逃走中です、」
画面端には六本木交差点付近で通り魔発生、死者26名、犯人は逃走中と大きくテロップが表示されていた。文字色に指定されていた赤色が真希の不安を煽った。しかし達也は平静だった。
「すぐに捕まるさ。日本の警察は優秀だからな」
真希は不安そうに達也を見上げ、
「けど警察の人も5人殺されたって言ってたよ」
「5人も?」
真希の隣に座った達也。真希も座り直しながら、
「これヤバくない?六本木ってすぐ近くだよ?新宿方面に逃走したって言ってたし」
達也は机に置いたホットケーキにシロップをかけながら呑気に言う。
「大丈夫だって、犯人が逮捕されるまで外に出なけりゃ安全だ。警察だって今頃、血眼になって犯人を探してるだろう」
達也の言う通りだった。東京全域では捜査官を500人導入した捜査が始まっていた。彼が逃げ込んだ狭い下水の通路にも300人以上の捜査官が慌ただしく駆け足で捜索し、下水道の隅々を幾つものライトで照らして回った。
地上にもパトカーが行き交い、捜査官達がゾロゾロと街を散策した。
基市は乗り込んだ別の覆面パトカーの運転席で前を見つめて項垂れていた。頭に巻いたばかりの包帯には血が赤く滲んでいた。視界には彼が乗り捨てたアリストと潰されてひっくり返っている覆面パトカー。
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