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彼を取り逃がしてしまった事を悔やんでいた。
そこに電話が鳴った。ワンコールもしない内に応答した。部下からの連絡だった。
「車の持ち主判明しました!練馬区在住の飯島直人のものと思われます。前科があったのでその時の顔写真のデータを添付して送ります」
「すぐ行く」
早々に電話を切るとエンジンをかけ、騒々しく人々が群がる悲惨な事故現場を後にした。
ちょうどその頃、夕方のテレビのニュース番組は彼による事件の報道一色となっていた。名だたる専門家達は口々にカメラに向かって自論を展開させた。
「なぜこのような事件が起きてしまうのでしょうか」
「非常に特異なケースであります。犯人の人格に何らかの歪みが発生しているとしか考えられません…常軌を逸している」
「歪みと言いますと」
「ここまで徹底して大量に殺人を犯す意志を構築する…いわゆる、エネルギーとなっているものですね、例えば過去のトラウマですとか…心に何か重大な問題を抱えているとしか思えません」
「今回の事件は近年発生した類似の通り魔事件の様な自暴自棄による単純な犯行には見えませんよね。警察官の発砲を掻い潜り、返り討ちにしている。特殊な訓練を積んでいる者の犯行ではないでしょうか」
「いえ、彼はサイコパスでしょう。殺人快楽者です。人を殺す行為に性的興奮を覚える人種ですね。さらなる快感を求め、歯止めが効かなくなっている」
「ですが…人を殺すのが好きなだけなら何故、秘密裏にやろうとしないのですか。わざわざ警察と殺り合うリスクを負う必要は無いのでは」
「ご覧頂いたかと思いますが、防犯カメラがとらえた映像に映る犯人の動き、この素早い身のこなしは常人には不可能ですよ」
「彼は自分の力を見せ付けたかったんだ。街で暴れ、警察と殺し合って、世間に自分の存在を知って欲しかったんだと思う」
「だが臆病者だ。顔を仮面で隠している」
「マンホールをこじ開けるバールまで用意していたんですよ?追跡を逃れる為に下水道に逃げ込んで…!完全に計画的犯行です…!」
「これは始まりに過ぎない…何かが始まろうとしている…不安を禁じえません」
報道を見た人間の半数以上は不安に駆られ、冷酷無慈悲な犯人に憎悪した。しかし、それとは真逆の感情を抱く者も居た。ネットの掲示版には度々、人の命を無差別に奪った彼を賞賛する声が目に余った。
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