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日本社会を揺るがす大事件に怒りを露にし、もしくは嬉々として話題にして騒いだ。
事件発生から4時間。六本木で無差別大量虐殺を行った彼は未だに行方が分からないままだった。
基市は彼の行方を追って練馬区にある飯島直人の実家に到着した。黒色の覆面パトカーは飯島家の前で急停車した。
周辺には似たような外見の真新しい民家が並んでいたが、飯島の表札と車の無いガレージが目印になった。
基市は車から降りて足早にインターホンを鳴らした。応答は無い。もう一度インターホンを鳴らしてから声を出した。
「飯島さん警察です!開けて下さい!」
その後にドアを何度か強く叩いたが応答は無かった。
玄関の白い壁に3滴の血痕が付着している。それに気付いた基市は不穏な表情を浮かべながらドアのぶを握った。ゆっくりとドアを引く。施錠はされていなかった。
まずはドアの隙間から中を覗いて様子を窺った。薄暗い屋内が視界に広る。さらにドアを開けると、基市の視線は足元に釘付けになった。玄関には脱ぎ散らかった靴に混ざって中年の女が仰向けで倒れていた。女は首を切られ、赤黒い血液がタイル張りの床に広がって固まっている。
他殺体を見た基市は素早く拳銃を胸ポケットから構えてから中に入った。音が立たないようにドアを閉める。室内を見渡す鋭い目付きは暗闇に光り鋭さを増す。
まだ中がどういう状況なのか微塵も分からない。基市は慎重に、足音を立てずにゆっくりと土足のまま廊下に上がった。
廊下を進み、奥の広いリビングへ出たところで、リビングの中央のソファーに座っている人間の後頭部が見えた。
「っ!」
基市は咄嗟に銃口を向けた。
「おい…警察だ…お前は誰だ…?」
返事は無い。ゆっくりと忍び足で距離を縮める。ソファーの正面に回らなければ、この人物が何者なのか判断できない。基市は拳銃を構えたままソファーの正面へと慎重に近寄った。
「クソ…」
それだけ呟くと拳銃を下ろした。ソファーに座っている男は飯島直人、本人だった。
飯島は両目と胸部から腹部にかけてをナイフで56箇所を刺されて死んでいた。白いソファーと白いTシャツは夥しい量の血液で真っ赤に染まり、ベランダの窓から射し込んだ夕陽に照されて痛々しく輝いていた。
その時、基市の後ろで物音がした。心臓が跳ね上がる。咄嗟に振り向いて拳銃を構えた。
「にゃ~」
テーブルの上で黒猫が基市を見つめて座っていた。
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