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「はーい」
元気の良い返事は廊下から聞こえた。
「大丈夫かしら」
「大丈夫やろ。寺西に送り迎えさせてるしやな、寺西は出来る男や。ボディガードとしても優秀やからな」
「ボディガード言うてもずっと玲子に付いてるわけちゃうやん。心配やわ…」
「お前は心配しすぎや。うちの子に限ってそんな、あるわけないやろ」
言ったあとに呑気にお茶を啜る榊。視線の先のテレビは、六本木の事件の被害者遺族が泣きながら事件の理不尽さと怒りを訴えていた。
外に出た玲子は大きな木製の門の前に停めた黒塗りのプレジデントの方へ歩いた。車内で待っていた榊組幹部の寺西健一は玲子の足音に気付くと運転席から降りて後部座席のドアを開けた。
高身長にピッタリとフィットした高級スーツ。髪はオールバック。強面の寺西が爽やかな笑顔を作り、
「お嬢、おはようございます」
「おはよー」
適当に返事をしてスマホをいじりながら乗り込む玲子。寺西はドアを閉めると運転席に戻った。すぐにエンジンをかけ、車は門を出て車道を走った。走行中、玲子は普段通りにスマホをイジりながら寺西に喋りかけた。
「寺西さんは虐殺仮面どう思う?」
「虐殺仮面?」
あまりネットもテレビも見ない寺西は、その呼び名を今初めて聞いた。バックミラーをチラ見すると玲子と目が合った。
「六本木の仮面の通り魔のこと!知らないの?」
寺西は目線を前方に戻し、
「あぁ…。そうですね…あんまり…。1回ニュースで犯行時の映像見ましたけど、ま、エグいですよね」
「それはどっちの意味?褒めてる?貶してる?」
「どっちもですね」
「どっちも?」
「テレビで見ましたけど、あいつのあの動き、エグくないですか?」
「エグい!こわい!」
「あれ、素人の動きとちゃいますよ。人を殺すってのに全く躊躇いもしてなかったし…あの短時間に警察合わせて26人殺害、普通じゃないですよ、あれ」
言いながら少しだけ笑った寺西をミラー越しに見た玲子は問う。
「もしかして寺西さんも虐殺仮面のファン?」
寺西は失笑し、
「ファン?まさか」
「違うん?」
「違いますよ。ま、極道の自分が言うのもアレですけど、あいつのやった事はホンマ最低ですよ」
「けどファン結構多いんだよねー、ほら」
玲子は前の座席に乗り出して運転中の寺西にスマホを見せた。寺西が横目で画面を見ると虐殺仮面ファンクラブの文字が確認できた。
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