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「ファンクラブ…?そんなもんあるんですか。世も末やな」
玲子は座り直しながら、
「なんでなんやろね、こういうサイト作る人、何考えてんねやろって感じ」
「自分の事しか考えてないんでしょ。ま、その方が人間らしくて良いと思いますけどね」
二人を乗せた車が横切った建物は警察施設だった。この広いグラウンドと4階建ての建物は警視庁機動隊の隊員達が訓練する為に作られた。今朝も300人を越える隊員達が厳しい訓練を行っていた。
鉄製の重さ20キロの盾を担ぎ、隊長の号令に従って全力で走る隊員達の姿がグラウンドに見られた。
「第一陣っ!用意っ!!」
隊長である42歳の佐久間嘉樹が叫ぶと、先頭を走っていた6人がランニングコースを外れ、中央に停車している放水車から数メートル離れた位置に駆け足で向かった。
佐久間は彫りの深い般若の様な恐い顔をしており、文字通りの鬼の隊長として隊員達からは恐れられていた。
他の隊員達がランニングを続ける中、隊長は6人が定位置に着くと号令を叫ぶ。
「構えっ!」
その声に従って隊員達は声を上げ、一斉に盾を放水車の前方に突き出し、足を大きく伸ばして広げ、しっかりと地面を踏み込んだ。
「放水開始っ!」
放水車は6人に向けて勢い良く水をぶっ放した。強い水圧が隊員達を襲う。盾にぶつかった水の槍は大きな音を立てて大胆に水しぶきを上げる。辺りは瞬く間に水浸しになった。
容赦の無い放水に堪え切れず、3人の隊員は踏ん張った足からバランスを崩し、姿勢を保てずに盾と共によろけて後退してしまった。隊長は彼らに怒声を浴びせる。
「戻れ戻れっ!なにやってんだ!はやく戻れっ!」
放水は続けられた。尻餅をついて転けてしまった隊員も急いで元の場所に戻ろうと盾を構え直すが、凄まじい水圧に押されて中々戻れない。放水を堪え続ける隊員は歯を食い縛り、ずぶ濡れになりながらも体力の限界寸前まで気合で持ち堪えた。これが彼らの仕事だった。市民を守る為に有事に備える、その労力は計り知れない。
「放水やめっ!第二陣、用意っ!構え!放水開始!」
そう叫んだ隊長の元に事務官が駆け足でやって来た。
「佐久間隊長」
「あ…?」
「警視庁から基市刑事が来られています」
佐久間は本舎の一室で待つ基市の元へ向かった。
基市は3階の部屋の窓から目を細めて外を眺めていた。窓からグラウンドで訓練を続ける隊員達を一望できた。
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