チャプター2

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隊員達の訓練は暴徒の制圧を想定した二人一組の実技訓練に移行していた。縦に一列に並び、片方の隊員がゴム製の警棒でパートナーとなった隊員を攻撃する。もう片方は盾で攻撃を防ぎながら盾と警棒を使って反撃する。盾を前に押し出して体当たりをする者も居れば、攻撃を盾で防ぐのに精一杯で防戦一方の者も居る。 盾を持たない暴徒役の隊員は機敏な動きが求められた。盾を叩き落とす者、盾に蹴りをかまし、隊員がバランスを崩した隙に警棒による猛攻撃で制圧を阻止する者も居た。 基市は鋭い目付きで全員の動きをよく観察した。ただでさえ険しい顔は一段と険しさが増していた。そこに佐久間がやって来た。 「朝から何の用だ基市、六本木通り魔の捜査はどうした」 振り返る基市。そして言う。 「やってますよ、今の今も」 「あぁ?」 「犯行現場の防犯カメラの映像を解析したんですけど、奴は…警官が発砲した銃弾を避けてたんすよ」 腕を組ながら佐久間は顔をしかめ、 「知ってるさ。引き金を引かれる前に体を反らせば誰だって出来るだろ」 「誰だって?」 「いや、全員では無いが」 「奴は銃を持った警官5人を短時間で殺害した。そんなマネができるのは訓練された人間だけでしょう。訓練された人間なら、確かに誰だって出来る。例えば、機動隊の隊員とか」 「奴がうちの隊員だって言うのか?」 「それはまだ分かりません。今分かっているのは奴がただの通り魔じゃないという事だけです」 数秒間、沈黙が流れた。その間、窓の外からは隊員達の威勢の良い掛け声が耳に入った。 「心当たりは無いですか?隊員の中で猟奇的趣味のありそうな者や、社会に不満を溜め込んでそうな者」 「おい基市、うちは警視庁が誇る機動隊なんだぞ。鍛えてるのは肉体だけじゃない。心も鍛えてるんだ。精鋭揃いの部下に犯罪者になるような奴は一人もいるわけねぇだろ」 「そうですか。それなら論より証拠。事件当日の隊員全員のアリバイを文書で証明して下さい。3日以内に」 「おいおい、仕事を増やすなよ」 「警視総監からの命令ですよ」 「ったく…わざわざ出向きやがって…電話で済ませろよ」 基市は後ろの窓の外に振り向きながら、 「一応、この目で見ておきたくて。精鋭揃いの部下達を」 「で?この中に虐殺仮面は潜んでそうか?」 「その呼び方はやめて下さいよ。奴はヒーローなんかじゃない」
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