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すぐ後ろにサイレンを鳴らした覆面パトカーが迫っている。
基市は前を見たまま、助手席で強張った表情でシートベルトを握り締めている冬月に言う。
「冬月、奴の車を撃て」
「えっ…撃つんですか…!?」
「そうだ早くしろ」
「けどっ、もし車がスリップして事故でも起こしたら、誰かが巻き込まれて…」
「もしもの事を心配してる場合じゃないだろ!」
その時、彼は咄嗟にハンドルを右に切って反対車線に飛び出した。そのまま逆走を続ける。進行方向を走ってくる車を連続してかわしていく。前方には交差点が見える。右に曲がられてしまうと大きく距離を離されてしまう。
「逃がすかっ…!」
それが逆走を始めた狙いだと気付いた基市はハンドルを切った。大きく揺れた車体と振動にビビる冬月。
「ひいっ」
反対車線を逆走する2台の車。若干遅れながらパトカーもサイレンを唸らせながら後を追う。
クラクションが飛び交う。基市と冬月の視界に前方からトラックが突っ込んでくるのが見えた。大きすぎるトラックの車体は路肩に寄っても進路を譲りきれない。鳴り響くクラクション。ぶつかってしまうかもしれない。目を強く瞑る冬月。
基市は咄嗟のハンドル捌きで元の車線に車を戻した。車体は寸前で衝突を免れたが、後続のパトカー3台はトラックと衝突して次々と大破していった。ブレーキを踏んだトラックは歩道に乗り上げてから木に激突して停止した。
すぐに基市は反対車線に車を戻した。冬月は後ろを向いて大惨事となっている事故現場を見て絶句している。基市は怒鳴った。
「撃てっ!冬月っ!」
「はっ…はいっ」
慌てて窓から顔を出し、両手で拳銃を構えて2発発砲したが、弾が命中する事は無かった。
彼は基市の読み通りに交差点を右折した。
「シートベルトしろ…!」
「はいっ」
基市の運転する車は無理矢理に右折する為に大きくドリフトした。進行方向を走る車との衝突はギリギリのタイミングで回避した。
彼の車を追い掛けるのは基市の運転する車と1台のヘリコプターのみとなった。彼は後ろを振り向いた。まだ覆面パトカーがサイレンを鳴らして追い掛けてきている事を確認した。そして助手席の窓から身を乗り出して拳銃を向ける冬月の姿が見えた。
「っ!!」
3発の銃声と共に砕け散る後部ガラス。彼はハンドルを握ったまま思わず身を縮めた。もう一度振り返ってから前を向き直すとアクセルを踏み込んだ。
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