第2章

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第2章

「いったいどこで、そんなに男を捕まえてくるの」 ため息交じりの奈々子さんに聞かれた。  彼女は大学のゼミの大学院生で、私たちは「コーヒーブレイク」の最中だった。  仙台の、小さな大学の4年生。そして10月。就活もひと段落し、かと言って卒論に集中する気力もない。9階角部屋にある研究室になんとなく通うものの、私と奈々子さんはエレベーターの隣にある事務室に逃げ込みおしゃべりしている。    そこにはいつもコーヒーと、いろんな国のマグカップがある。ゼミ生は海外に留学や出張すると必ず買ってきて、ここに置くことになっているのだ。アメリカ、イギリス、台湾、メキシコのものまである。て厚い陶器でできていて、両手で包むとちょうどいいくらい大きいものばかり。マグカップの中身がなくなるまで、ここでのんびりする。「こういうのがあるんです」 私はあるアプリを奈々子さんに見せた。マッチングアプリというものだ。 「起動するとこんな感じで、男の人の顔写真、名前と年齢、職業や学校が表示されるんです。」 「こんなに自分の顔を晒して、恥ずかしくないのかな」 「我に返ると恥ずかしいかもしれないけれど、自分を見てって気持ちの方が強いんじゃないかと思います。自己顕示欲とか、承認欲求とかが満たされるんですよ。たぶん。」 「そんなものかねぇ。」 「で、いいなと思えばこのハートのボタンでお気に入り登録、違うと思えばバツのボタンで無視できます。もし互いがお気に入りに登録すれば、メッセージのやり取りができるようになるんです。」    まるでネットショッピングのようなやり方だ。でもこのアプリで世界中で1日1200万件のマッチングが成立しているらしい。 「なんか代わり映えしない自己紹介ばっかりだね」  確かにみんな、同じようなことが書いてある。酒を飲むのが好き。休みの日は映画を観ます。一番盛れている自撮りと、海外旅行の写真。自慢にならないように、でもさりげなくデキる感を出す。そのさじ加減を間違えると、痛い奴になるか地味な奴になってしまうというわけだ。その結果、個性的なようで無個性な自己紹介が量産されてしまうのだろう。    今日も、ひとりに会うことになっていた。
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