序章

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 闇の中、四方を炎が埋め尽くしていた。鉄の身が熱を帯びる。止め処なく血が流れ、身体に力が入らず、それでも彼は倒れることを拒んだ。熱された刀身を床に突き立て、身を起こす。刃が欠ける。  もう何本目になるか、罅が入った。パラパラと煌めきながら落ちていく刃は地面に落ちる前に消滅していく。  背後で何かを囁く声が聞こえた。ちらっと振り向くと、膝を突き今にも泣きだしそうな顔で手を伸ばす少女の姿があった。彼はその手から離れるように、前へと出る。  傷だらけの剣を持ち上げ、両脚を杭のように立たせる。ひび割れた剣から赤い光が浮かび上がった。  視線の先で屋根が崩れ落ちた。黒い靄のような霊気を纏った野太い足が床を踏み抜く。穢れに満ちた歪な声を上げるその人影は、天井を突き抜ける程の巨躯だった。爛々と輝く黄色い瞳に、額からは牛のような角が生えている。  破れた天井の先で星空が冷たく輝いていた。 「ぐふ」  怪物の口から溢れ出る瘴気が、目や口に入り込み、肺が焼けるように痛い。口の中に溜まった血の塊と共に悪態を吐く。 「臭いな、口の中位掃除しろよ、木偶の坊が」  言葉が通じるようにはとても見えないが、怪物は彼目掛けて何かを投げつけた。人間の上半身だ。断面は何かに引き千切られたかのようで、背骨が突き出ている。彼は視線すら向けずに身体を横に傾け、死体は床を転がった。  その者の名前を少女が呼ぶのが微かに聞こえ、彼の身体は微かに震えた。
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