ヒーロードリンク

4/15
前へ
/15ページ
次へ
 女生徒がひとりで駆けてきた。髪をひとつに束ね、汗で濡れた前髪の下で、目はくりっとしている。白いTシャツと青いショートパンツに着替えていた。マネージャーの瞳だ。  渡り廊下に、呼んでいたはずの先生の姿はない。 「忘れ物を取りに学校に戻ったら、乱暴な声が聞こえてきたから」  息をはずませながら、瞳が説明する。先生を呼んだふりで、ぼくを助けたつもりなのだろう。おせっかいな女だ。なにかと世話をやきたがる。 「余計なことするなよ」  ぼくは瞳に背中を向けた。 「早川君、我慢するつもりだったんでしょ。野球部が出場停止にならないために、あいつらに殴られるつもりだったんじゃない」 「ぼくがケガしたって、県大会に影響はないよ」 「なに、いじけてんのよ」  ぼくは応えず、水道の水で顔を洗った。体が熱くほてっていた。瞳には、ぼくの気持ちがわかるもんか。 「早川君がレギュラーになるチャンスだってあるのよ。誰かが出場できなくなって、早川君が監督に呼ばれる機会だってあるでしょ」 「うるさいっ」    ぼくは言葉を叩きつけた。 
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加