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女生徒がひとりで駆けてきた。髪をひとつに束ね、汗で濡れた前髪の下で、目はくりっとしている。白いTシャツと青いショートパンツに着替えていた。マネージャーの瞳だ。
渡り廊下に、呼んでいたはずの先生の姿はない。
「忘れ物を取りに学校に戻ったら、乱暴な声が聞こえてきたから」
息をはずませながら、瞳が説明する。先生を呼んだふりで、ぼくを助けたつもりなのだろう。おせっかいな女だ。なにかと世話をやきたがる。
「余計なことするなよ」
ぼくは瞳に背中を向けた。
「早川君、我慢するつもりだったんでしょ。野球部が出場停止にならないために、あいつらに殴られるつもりだったんじゃない」
「ぼくがケガしたって、県大会に影響はないよ」
「なに、いじけてんのよ」
ぼくは応えず、水道の水で顔を洗った。体が熱くほてっていた。瞳には、ぼくの気持ちがわかるもんか。
「早川君がレギュラーになるチャンスだってあるのよ。誰かが出場できなくなって、早川君が監督に呼ばれる機会だってあるでしょ」
「うるさいっ」
ぼくは言葉を叩きつけた。
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