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初球は内角低めに決まった。バッターは棒立ちだった。審判のストライクという声に、ようやく我に返ったようだ。
味方ベンチから歓声があがった。相手チームのベンチは静まり返っていた。続くバッターふたりも三振にうちとり、ぼくはマウンドを降りた。
ぼくのボールは百五十キロを超えるスピードで、高さを変えず、まっすぐ飛んでいく。身長が低いため、低めに決まるボールは打ちづらいようで、空振りした拍子に尻餅をつくバッターが続出した。
試合は投手戦となった。相手投手のピッチングも見事なもので、味方のバッターは次々とうちとられていった。もともとうちのチームは打撃力がない。ぼくがノーヒットに抑えても、相手から一点も取ることはできなかった。
両チーム無得点のまま、九回を迎えた。
ぼくはバッターボックスに向かいながら、足がよろけるのを感じた。すでに二時間は経過している。薬が切れかかってきたんだ。
第一球、第二球ともストライクを見逃した。目がかすみ、立っているのがやっとだった。
ピッチャーが大きくふりかぶった。相手は直球に自信がある。ぼくの様子から、いっきに勝負を決めてくるはずだ。ぼくは目に神経を集中させた。
直球がきた。ボールが一瞬止まって見えた。ぼくは最後の力を振りしぼってバットを叩きつける。芯をとらえた手ごたえがあった。
ボールはピッチャーの頭上をはるかに越え、バックネットに向かって飛んでいった。
ホームランを確信したぼくは、めまいを感じ、そのままバッターボックスに倒れた。意識がかすんでいくなか、勝利の歓声が耳に残った。
試合は一対〇で終了し、ぼくらのチームはついに決勝に進んだ。ノーヒットノーランの達成には、あとで教えられて気づいた。
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