救世主到来

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家へ戻り旅館の部屋へと入った俺と水月。 まだ彼女の表情は穏やかではなかった。 背を向けて顔を合わそうとしない彼女の背中を俺はそっと囲った。 その瞬間、彼女はカラダを強張らせ―― 愛「…ゃ……は…離して…」 そう言って彼女は俺から離れようとする。 力「…何もしねーよ…」 (…やっぱり何かあったんだな…) 壊れ物を扱うかのように俺は彼女を抱きしめた。 力「水月…」 なんとかしたかった。 俺は彼女を落ち着かせようと彼女の頭を何度も撫でていた。 愛「……ごめ………つと……ご…めん……」 また思い出したのか突如彼女がカラダを震わせ泣き始めてしまう。 こんな風に彼女が泣くなんてよほどのことがあったに違いない。 俺に言えないような? 力「…水月……落ち着いたらでいいからさ。俺に…おまえがひとりで抱え込んでいること……教えてくれないか?」 水月はいつも一人で解決しようと抱え込む傾向にあることを俺は知っている。 もっと頼ってほしくて、小学生の頃から俺は何気ない感じで彼女の思いを放出させていた。 祐への想い―― 彼女の祐への想いの捌け口はもっぱら俺だった。 だけど、その俺が今彼女の彼氏。 彼女は彼氏の俺にそんな祐に関することなど言いにくいに違いない。 俺は…水月の彼氏になって本当に良かったのだろうか? 友達のまま、俺をはけ口にしてくれた方が彼女が楽だったのではないか。 そんな思いさえも過る。 力「頼んねーかもしんねーけどさ、俺はいつもおまえのチカラになりたいと思ってるから…」
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