嫉妬

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その目は真剣だった。 そしてその瞬間、彼女の目から涙がポロポロ零れだした。 力「…え…あ……ちょ…じょっ…冗談だって!」 まさかまともにとるなんて思ってもいなかったから俺は焦った。 宥めるように急いで彼女を抱きしめると、彼女は震えながら訴えた。 愛「…やだっ……力が他の人となんて……絶対にやだっ」 (…水月……) 不謹慎にも俺はその彼女の言葉が凄く嬉しかった。 (…水月は、俺のこと……ちゃんと想ってくれてる…) そう確信した。 俺は彼女の頭を優しく撫でた。 力「だったらさ、おまえも俺以外の男には触らせるな?」 愛「…うん……」 力「俺は……おまえしか触んねーよ。」 そう言って俺が見つめると、彼女は俺の首に手を回したかと思うとその唇を重ねた。 愛「…力……大好きっ…」 信じられなかった。 俺の方が水月をどうしようもないくらい好きだと思っていた。 少しでも彼女に近づこうとするヤローがいると俺の嫉妬心が暴れだし、彼女を傷つけて…。 俺の強い想いが彼女を苦しめているんじゃないかと悩んだこともあった。 けれど、今、俺の目の前にいる水月は俺が望んだ、俺を一番に想ってくれる水月なんだとこの時、確信した。 力「…俺も…おまえが好きだよ………愛梨…」 愛「え…」 俺にとって彼女を名前で呼ぶことはかなり特別なこと。 なんとなく恥ずかしいということもあって呼べずにいたのだが、今は彼女を自然と名前で呼びたいと思った。 そんな俺を水月が嬉しそうに見つめている。 力「…だっ……だからそんなに見んなって!」 愛「…だって……だって……」 よほど名前で呼ばれたことが嬉しかったのだろうか。 さっきまでの表情とは全く違う。 そして、上目遣いで甘えるように最上級の笑顔を俺に向けた。 愛「…ねぇ……もう一回……名前…呼んで?」 (……なっ……ちょ……なんで……こんなに甘え上手なんだ?あぁ…コイツ……めっちゃ可愛過ぎる…) 力「あー…もう煩いっ!」 俺は水月を黙らせる為にさっき放った浴衣の帯を手に取った。 俺がその帯を持った瞬間、水月が顔を強張らせる。 愛「えっ?…ま…まさか…縛るの?」 この前、身動きできないように俺が縛ったことを思い出したのか、心配そうな顔で俺を見る。 力「違げーよっ」 愛「…じゃぁ…何するの?」 力「…痛くしねーから……」 俺は彼女をその帯で目隠しをした。 愛「……全然見えないよ……」 力「…だから…いいんだよ…」 俺は彼女の耳元で囁く。 愛「…よ…よくない…っ…」 少し脅えたような口調の彼女を俺は抱きしめる。 そして……耳元で、 力「…愛梨……」 愛「え…」 彼女の名前を呼ぶと、彼女の頬が一気に赤く染まった。 力「…愛梨……これならおまえに俺の表情見られねーからな。」 名前を呼ぶ度に俺の顔色を確認されるなんてたまったもんじゃない。 俺もそろそろ水月を自然に名前で呼びたいとは思っている。 けど、呼びなれない名前を口にするのはやっぱり抵抗がある。
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