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愛「崎田クンって、走るの結構早いよね。」
俺は崎田の走りをトラックの外で眺めていた。
先に練習を始めていた水月は休憩に入り、彼女もまた俺の傍で崎田の走りを見ている。
力「そうだな。アイツ、野球してた時もスゲー盗塁決めてたしな。」
崎田は中学の時、軟式の仲間の中で一番、盗塁が上手かった。
フツーじゃやってのけれないような盗塁を決めまくり、部活の仲間内では『盗塁王 崎田』と言われていたくらいだ。
愛「じゃぁ、結構いい線いくんじゃない?」
力「盗塁と400はまた別もんだからな。どうだろうな。」
盗塁は基本、短距離。
100とかなら期待できるかもしれないが、400となるとまた違う。
距離が全然違うし、そのレースの組み立て方がかなり難しい。
愛「それに、フォームも綺麗…」
確かに、一年間この学校の陸上部でトラックをしていただけあって走りのフォームは整っていると思う。
力「まぁ、その点はおまえよりやりやすいかもな。」
愛「なにそれー。なんか悔しいー。」
力「ははっ…冗談だって。」
愛「冗談じゃないでしょ?だって、昨日、あれだけ私のフォーム直してたじゃない?やっぱり私、トラック競技なんて向いてないよ、きっと…」
そう言って、ちょっと落ち込んでしまった水月。
そんな彼女の頭を俺はポンポンと叩きながら、
力「けど、おまえ、のみ込み早えーからすぐにカタチになっただろ?」
自分では気づいていないようだが、水月の運動神経はかなりいい類。
一度そのカタチを覚えてしまうとすぐに吸収してしまう能力がある。
だから素質のないヤツなんかと比べたら断然上達は早い。
しかし、新天地。
いきなり崎田が一年かけて築き上げてきたものにすぐに追いつくはずがない。
力「崎田はな、トラックやってたんだからできて当たり前。おまえは今までトラックなんてやったことなかったんだからさ。」
愛「…そうだよ。私、初めてなんだもん。」
力「そうだな。ん……おまえは初めてのコトが多すぎるよな?」
俺は含笑いをしながら水月の顔を覗き込む。
愛「…それ…どういう意味?」
(どういう意味も…そういう意味だよ。)
このトシにして知らないことが多すぎる水月。
トラック競技のコトは仕方ないにしても、結構、常識ハズレてるところがあって俺も説明に困ることが多い。
けど、そういう時に見せる純粋な『何も知らないような顔』をした彼女が俺は凄く可愛く思えるわけで――
特にあっち関係の話の時は俺はたまらなく悪戯な気分になる。
そして知ったときのあの恥ずかしそうな顔に俺がどれだけ欲情してしまうか。
力「…別に…」
愛「…もしかして、また、えっちなコト想像してる?」
顔に出てしまっていたのだろうか。
俺の考えてる事が水月に筒抜けのようだ。
まぁ、もう俺がそういうヤツってのは水月も理解ってるようだし、何言われても全然いいのだが。
力「ん?してねーけど?つーか、なに?もしかしてそういうこと、期待してんのか?」
そう言って俺が覗き込むと、彼女はその頬を一気に赤く染めた。
愛「…もうっ!力のえっちバカっ!…私、跳躍行ってくるっ」
力「…クスッ……じゃ、また後でなっ。あ、それと、言っておくけどさ、後半の練習しねーんだったから、帰ったら『みっちり』いろいろするからな!」
その言葉に跳躍の方へ向かっていた水月が足を止め、俺の方へと振り向いた。
愛「…いーだっ!」
まるでコドモの様な顔を俺に見せる彼女。
力「水月ー!まだまだガキだなー!もっとオトナにしてやっからなぁー!」
愛「…!!!…ばかぁ…」
そういうと、彼女は俺に背中を向けて駆けて行ってしまった。
可愛くて仕方ない。
(…っつーか……あいつ、ホント、からかい甲斐があっていいなぁ…)
昔から変わっていないその姿に俺が懐かしさを覚えていたその時だった。
祐「今日も来てたんだな……」
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