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俺は言葉を失っていた。
(コンヤクシャ…?…婚約者……って…)
力「…なっ…何言ってんだ?今どき『婚約者』なんてバカじゃねーの?」
そんなことがあるわけないと思った。
百歩譲ってそうだとして、それなら何故中学二年の時にあんなコトになってしまったのか。
それにもし、そんな事実を水月が知っていたら、あんなにも彼女は苦しまなくて良かったはずだ。
力「おまえいい加減なコト言ってんじゃねーぞ!」
祐「だから、俺はいい加減な気持ちでなんか愛梨に近づいてないって言っただろ?あのさ、愛梨に『説明』する前におまえに言うのはどうかと思うけど、でもまぁ、いずれ『公のカタチ』になるわけだし?おまえが愛梨から手を引かないって言うんだったら愛梨に言う前に力には言っておいてもいいのかな…」
(『説明』?『公のカタチ』?一体、祐は何を言おうとしてるんだ?)
俺は凄い胸騒ぎがしていた。
そして、次の瞬間、祐から語られたことは俺を奈落の底へと突き落とすような内容だった。
祐「力……愛梨は俺のレッキとした『許婚』なんだよ。俺の祖父さんと愛梨の祖父さんが決めた正式なね。」
力「…なっ?…じょ…冗談…だろ?」
祐「俺もね、冗談なんかでこんな事言わないよ。俺の祖父さんと愛梨の祖父さんって同郷で親友同士だったみたいでさ。何か借りがあるとかないとか言ってた。そこらはよく分からないけど…」
親同士じゃなく、祖父さん同士って……
時代錯誤もいいトコだ。
祐「実はね、俺も高校に上がるまでは知らなかったんだよ。けど、いろいろあって…。俺さ、卒業したら祖父さんの跡継がないといけないらしくてね。俺だってホントはしたい事あったんだけど…」
今のご時勢、なんとも考え難い。
何で、祖父さんの都合で孫の人生が決められないといけないのだろうか。
力「だったら、わざわざ後なんて継がなくてもいいんじゃね?おまえも好きな事やったら…」
祐「けど、その跡継ぎになれば、俺は愛梨と高校卒業と同時に結婚できるって言うからさ…」
(…えっ…今、なんつった?高校卒業と同時に……結婚?そんなコト、俺は水月から何も聞いてねーぞ!?)
力「おまえ、デタラメ言うなよ!水月はそんな話ひとつもしてなかったぞ?」
祐「…クスッ…そりゃそうだと思うよ。愛梨は知らないはずだから。けどね、愛梨の親は知ってるはずだよ。そう、兄貴もね。」
洋太さんの名前が出てくるということで更にそれが現実味を増していく――
祐「俺なんかよりもっと早い時点でこの事実を知ってたと思うけど?まぁ、聞いてみたらいいよ。」
そこまで言うということはおそらくそれは事実だろう。
力「おまえは……それいつ知ったんだ?」
祐「高校に入学してから……そうだな、昨年末くらいだったかな。いきなり祖父さんがやってきてさ。後継者がどうとか言い出してちょっと揉めてね。…まったく…参ったよ。」
力「おまえが後継者?」
祐「ん、よく分からないけどね。でも、継げば、愛梨と結婚できるって。でも、写真見せられたときは本当に驚いたよ。その許婚ってのが俺のよく知ってる女の子だったから…」
俺は混乱していた。
(ちょっと待てよ…。けど、そんな話があれば、絶対に水月の耳には入ってるはずだろ?しかも、水月の親は俺と彼女がつきあってること知ってるはずだし。洋太さんだってそうだ。何で本人に黙ってんだ?つか、水月はこのコト、知っているのだろうか。いや……まさか……)
力「もしかして……知らないのは…」
祐「…そう……愛梨だけ…だよ」
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