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そんなことがあっていいのだろうか。
(水月は……この事を知らされていない…?)
力「だったら…どうして……水月がそんなコト知ったら…」
祐「俺はね、この三年間で愛梨を振り向かせて、そんな祖父さん同士の約束とか関係なしに愛梨と一緒になりたかったんだよ。だから卒業まではあえて愛梨には言わないで欲しいって祖父さんに頼んでるんだ。ま、ちょっと誤って、昨日愛梨には少し言いかけてしまったけどね。」
おかしいと思っていた。
いくら祐でもあんなに堂々と『俺の女』宣言するなんて。
水月の気持ちがないのにそんなことをはっきりと言えるのには理由があったということ。
俺はてっきり、祐があの頃のまま、気持ちが取り残されてそんなことを言っているのだと思っていたのだが。
これでようやく全てのことが繋がってきた。
祐「確かに、愛梨は力に抱かれたよ。愛梨が今好きなのは力かもしれない。けどね、いくら過去の祖父さん同士の約束とはいえ、約束は約束だから…」
力「ちょ……おまえ、そんなコト、水月が納得するはずねーだろ?それにそんな約束もう完全に時効だろ?それよりも水月の意思はどうなるんだよ?」
水月が祐をまだ少しでも想っていて納得して俺と別れるならまだいい。
けど、あいつの知らないところでこんな事が――…
そんなこと、俺は絶対に認めない。
祐「意思も何も…。力、愛梨はね、既に承諾してんだよ。」
(え?承諾…?)
力「どういう……ことだよっ?」
祐「愛梨はその『婚約者』のしるし……後継者の妻としてのものを、もう受けとってるんだよ。」
力「は?なんだよっ、それ?」
祐「ん、祖父さんの話によると、それの中には祖父さん達が交わした公式な文書と大泉家に代々伝わる指輪が入ってるらしい。」
ふと頭に過ったそのもの。
思い当たるフシがある俺は嫌な予感がしていた。
まさかそれは……あの時、祐が水月に渡したあの…?
祐「あぁ…そう…。確か、あの日、力もいたから覚えてるよね?あの別れ際に渡したあのお守りだよ。」
予感は的中していた。
小学四年生の時に祐と水月が離ればなれになるあの日、別れ際に水月が祐に貰っていた御守━━
そして、それを水月がずっと肌身離さず持っていたことを俺は知っている。
けど、最後にそれを見たのは確か二度目の県大会の時。
祐に裏切られ俺の腕の中で泣きじゃくっていたあの日――
それ以降、あのお守りを俺が目にすることはなかったのだが……
祐「ま、俺もあのお守りがそんな意味を持っているのかなんて当時は全然知らなかったんだけどね。」
力「だったらそんなもの、今さら引っ張り出してくんなよ。」
中身が何かも知らねーのに、水月に渡したからといって、どうしてそれが『承諾』になるのだろうか。
祐「けどさ、そのお守りの中の契約書、法的なものなんだよね。しかも、愛梨の祖父さんの遺言も書かれているとか。『孫の愛梨がこれを持った時点で結婚を承諾』みたいなこと書かれてるって。」
俺は息をのんだ。
それが法的なもので、しかも遺言まである。
そうなると、水月はれっきとした『祐の婚約者』として公的には認めざるを得ない。
けど、だからと言って、今さら俺は引けない。
お互い惹かれ合ってるのにどうしてそんな時代錯誤な契約で仲を引き裂かれなければならないのか。
祐「力…おまえは俺の婚約者を寝取ったってコトになるんだよな?」
力「寝取った……つか、冗談じゃねぇ!んなもん知るかよ!お互いが好きだから俺たちは寝たんだよ。っていうか、第一、水月の気持ちはどうなんだよ?」
そんなワケの分からないことが罷り通る時代であっていいわけがない。
それに、そんなコト、水月が知ったらどれだけ傷つくか。
水月の祖父ちゃんも祖父ちゃんだ。
何で本人の意思とか関係なく、そんな話を進めたのだろうか。
(あっ!そういえば……水月の祖母ちゃんと俺の祖父ちゃんって昔、恋仲だったって言ってたよな。あの時代……好きだからと言って結婚できたわけじゃなかったからな。ってことは、水月の祖父ちゃんと祖母ちゃんは見合いかなんかか?だったら…、そんな不幸なこと…どうして孫にまでふっかけてくんだよ!?)
力「…祐……おまえ、なんでそんな時代錯誤なことに拘ってんだよ?水月のことを本当に想うならそんな事、ムゴいと思わねーのかよ!?」
祐「そうだな。それは思うよ。けどね、愛梨は……俺をまた好きになるよ。最初はツラいかもしれない。けど、俺、おまえのことなんてすぐに忘れさせる自信あるからさ…」
その祐の自信がどこからくるのか分からない。
一度、裏切られた相手をどうやって好きになれるというのだろうか。
水月の中でどれだけおまえというヤツがヒドい存在になっているのか理解ってないのだろうか。
力「おまえさ、馬鹿じゃねーの?」
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