69人が本棚に入れています
本棚に追加
祐「…馬鹿……ね……ん…まぁ、ある意味そうかも…」
一瞬見せたその悩ましい表情――
祐もまたそれが彼女を傷つけることなんて理解しているのかもしれない。
祐「俺もね、あまり事を大きくしたくないんだよね。」
そう言ってため息をついた。
力「それ……どういう意味だよ?」
祐「ん、俺の祖父さんの会社って結構有名でさ。あぁ、おまえならたぶん知ってるかも…」
俺が知っている会社となると限られてくる。
だとするとかなり有名な?
祐「大きいグループだからな…」
瞬間、俺の中にひとつの大きな社名が浮かんだ。
(グループって……まさか…っ…!?)
力「…大泉…グループ…?」
直後、祐はそれを認めるように頷いた。
大泉グループと言ったら知らないヤツがいないくらいの大企業。
祐はそんなグループのトップの孫だったというのか。
祐「…なんか…そうみたいでさ。俺の父さん、若い頃、母さんと駆け落ちしたらしいんだけどね。けど、母さんが一人息子の跡取りの父さんのこと考えて祖父さんと仲直りさせようとしたんだよ。で、なんとか和解したんだけど、父さんはそのグループの跡取りとしては戻らないって突っぱねたらしくて。そしたら祖父さんがその代わり、男の子が生まれたらその子を跡取りにしろって言い出したらしくってさ…」
『跡取り騒動』に巻き込まれていた祐。
ある意味、祐も被害者の一人。
祐「もちろん父さんはそんな条件は呑まないって言ってたみたいなんだけどね。けど、母さんは父さんを愛するあまり、勝手にその条件を呑んだらしいんだ。たったひとりの息子と父親である祖父さんを決裂させたくなかったみたいで。で、その直後、俺ができた。もちろん、祖父さんは俺を可愛がったよ。で、可愛さ余って、俺を小学四年の時に祖父さんの近くに呼び寄せたんだ。それがあの転校だよ。」
あの時の、水月との最初の別れの裏にそんなことがあったなんて思いもしなかった。
大企業の跡取り騒動。
まさか現実にそんなことがあるなんて思いもしなかった。
子供や孫の気持ちなんて全く考えることなんてしない。
そんなものに人生を左右されるなんて祐もまた可哀そう過ぎる。
力「おまえさ、なんでそんなクソジジイの言いなりになってんだよ?」
いくら大企業のトップが祖父さんだからといって、どうして祐の人生を勝手に決められなければならないのか。
俺だったら祐の父さん同様、そんな条件は絶対に受け入れない。
もちろん、自分の子供にだって手を出させない。
俺の人生、まして家族の人生まで奪われるなんてゴメンだ。
力「なんで、おまえの親父さんは最後まで突っぱねなかったんだ?」
祐「いや、父さんは反対してたんだ。息子の人生をそんなお家騒動で狂わせたくないって。けど、母さんは約束は約束だって言ってね。でも、俺の人生を最初から決めるのはあまりに可哀そうだと。だから、俺が高校卒業するまでは好きにさせて欲しいって、祖父さんに掛け合ってくれてたらしくて…」
どうやら祐の両親はまともな親みたいだ。
俺も小学生の頃、何度か見たことがあるが、結構普通の親だった記憶がある。
けど、権力者にはどうしたって太刀打ちできなかったのだろう。
俺はその時、ちょっと祐の生まれもっての運命を可哀想と思い同情した。
しかし、次の祐の言葉で、俺はそう思った自分がいかに浅はかだったのかを知った。
祐「でも、その婚約者がまさか愛梨とは俺も思ってなかったけどね。もちろん母さん達も知らなかったから驚いてたよ。まぁ、母さんは愛梨のコトを凄く気に入っていたし、俺が愛梨のコト好きだってのも知ってるからこの話はもう大賛成だけど…」
そう言って祐は穏やかな表情で水月を愛おしそうに見つめた。
祐「けどさ、偶然にも俺は愛梨と出逢ったんだよな。そして俺と愛梨は惹かれ合った。ね、力?これが運命じゃないって言えるかな?」
運命だなんて絶対に思いたくもないし、俺は認めない。
たとえそれが運命だとしても、俺はその運命を絶対に変えて見せる。
力「…思い込みじゃね?」
俺は祐を冷たくあしらうように言った。
祐「…クスッ……力らしいな。」
最初のコメントを投稿しよう!