予兆

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愛「無理ですっ」 私は即答した。 翔「最近、女に飢えてんだよ…」 今にも迫ってきそうな先輩。 その妖しい目を私に向けてくる。 愛「…わ…私じゃない人とやってくださいっ…」 翔「俺の気持ち……知ってるくせにそんなこと言う?」 以前、先輩は私のことを好きだと言ってくれた。 でも、今はもう私のことは諦めてくれて、私たちは良い先輩後輩の付き合いをしていると思っている。 力とのことも応援してくれているカンジだったから暫くこういった迫るようなことはなかった。 なのに、またこうやって。 きっと冗談の延長で悪戯しているのだと思った。 愛「…先輩、冗談ばっかり……分かってますから…」 翔「…冗談…か…。でもさ、こんな近くに可愛い格好している女を見たらなぁ…」 ゾクリとするような妖艶な目つきで私を射るように見る先輩に久しぶりに危険を感じた。 囲われているその腕と足の隙間―― タイミングを見計らってそこから逃げようとしたその時だった。 ……ドサッッ…… 先輩はなんとそのまま覆い被さってきて―― 愛「…ぁ……」 翔「…逃げんなよ…」 愛「…や…だ……」 マットに沈むようにして覆い被さられた私は身動きができなくなっていた。 翔「…マットって…こういう時、便利だな…」 二人の重みで沈み込んだマット。 おそらく、遠くからその状態に気づく人はいない。 トラックの方にいる力にさえも―― 翔「…おまえさ、最近、色気づき過ぎなんだよ…」 愛「えっ?」 翔「なんかやたら女なんだよな。しかも俺好みの……しかも、胸も成長してきやがるし…」 愛「…ど…どこ見てるんですか!それに私は先輩のこと好みじゃありませんっ」 翔「そっかぁ?おまえ、絶対に俺のコトは嫌いじゃないはずだけど?」 愛「ちょ…どうして、先輩はそう自信過剰なんですか!」 翔「よく言うよな。俺のキスにあんなに感じてたのに…」 それは高校に入ってすぐの出来事。 迷い込んだその場所で初めてキスを奪われたあの日。 そして、部活の帰り道、先輩を本気で怒らせてしまって更に濃厚過ぎるキスを受けた。 しかも、そのキスは有無を言わさない強引で物凄くえっちなキスだ。 愛「そ…それは……まだキスに慣れていなかったから…」 先輩の腕の中でそのキスに溺れてしまった私は気を失いかけた。 でも、もう私は先輩のキスになんて落ちない。 翔「じゃぁ、さぞかし今はキスも慣れて上手くなったんだろうな?」 そう言うと、その距離を更に近づけ、艶っぽい視線を私に向けた。 翔「どのくらい上手くなったか俺が確かめてやるよ…」
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