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真「…力、何やってたんだよ?」
祐がトラックへと向かった直後、真が深刻そうな顔をして俺の元へと駆けてきた。
力「何が?」
真「何がって……おまえ、さっき祐の胸ぐら掴んでなかったか?」
あんな一瞬の出来事だったのに、さっきの俺たちの様子を見られていたとは。
力「見てたのか…」
真「見てたも何も……水月ちゃんが気づいてさ…」
力「え?…水月……が…?」
真だけではなく、水月もあの様子を見ていたとは俺としたら不覚だった。
真「水月ちゃん、心配していたぞ?祐と…なんかあったのか?」
水月には下手な心配をさせるわけにはいかない。
だが、万が一のことを考えて真の耳に入れておくことでフォローを頼めるかもしれない。
そう考えた俺は真にはさっき祐と話したことを説明することにした。
真「…えぇっ?祐と400やるー?」
いきなりの俺の決断に真が仰天し、声が裏返った。
真「…っていうか、水月ちゃんが祐の許婚だったって……しかも大泉グループって……それ、どうするつもりだよ?」
力「どうするって…真……俺が祐に水月を渡すとでも思ってんのか?」
水月は祐に絶対渡さない。
真「…水月ちゃん、そのこと知らねーんだろ?…おまえどうすんだよ?」
力「今はとりあえず黙っておくつもりだよ。祐にもそれは頼んである。」
こんな事、水月が知ったら絶対に傷つく。
彼女の知らないところで進められていた婚約。
しかも、親も兄貴もその事実を知っていて、あいつだけ何も知らされていないなんて。
おそらく水月の家族も何か考えてのことだろうし、今は言う時機ではないのだろう。
真「そうだよな。俺だっておまえと同じ立場なら言わねーかも。けどさ、400やるったって、甲子園はどうすんだよ?」
力「まだ、今後を完全に決めたわけじゃないけど、とりあえず今年の夏の選手権は出るよ。で、今年のインターハイは間に合わねーだろうから、400は来年だな。」
甲子園――…
橋本監督は俺にかなり期待していた。
俺をプロへ送り出したいと言ってくれていた監督。
それを思うとちょっと気が重い。
真「っつーことは、おまえ、プロは諦めんのか?」
三年の夏にも甲子園で活躍すれば、それも叶う可能性があったかもしれない。
だが、二年で辞めて陸上へ転向となると諦めざるを得ないだろう。
力「そうだな。まぁ、高校卒業してすぐのプロは無理ってことになるな……」
俺的には高校卒業してドラフトにでもかかれば、早々に水月と一緒になれると安易に思っていた。
俺と水月が両想いになって付き合い始めたのは中学三年の卒業式の後からだが、最初から遠距離というスタートで不安ばかりの毎日。
水月は会うごとに綺麗になっていて、俺はその度に彼女を独占したいという欲求にかられ、最近はもう歯止めがきかないほどだ。
しかも傍にいるとヤりたくて仕方がない。
少しでも彼女と繋がって互いの気持ちを確かめ合いたい。
けど、それはたぶん離れているから余計に思うのかもしれない。
本当はこんな関係じゃなく、いつも近くで笑い合い、安心し合える関係を築きたいという気持ちもある。
だからこそ、俺はプロになるのが彼女との時間を持てる最短の道と思っていたのだが……
力「まぁ、プロは大学卒業してからでも入れるだろ?それにプロだけが野球じゃない。俺は、水月がいねー将来なんかもう考えられねーんだからさ。」
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