決意

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トラックを後にした俺は彼女のいる跳躍の練習場へと向かった。 愛「…力っ!」 俺のことを心配していたのだろう。 彼女は待ちきれなかったのか俺の方へと駆けてきた。 力「どうした?そんな焦って…」 俺は何事もなかったかのように水月に笑顔で振舞う。 愛「どうしたって…っ…」 今にも泣きそうな潤んだ瞳――― (…水月……心配かけてゴメンな……けど、今はおまえにホントのコト言えねーんだ…) 真「水月ちゃん、心配いらないって。昨日のことでちょっとモメてただけだから、な?」 珍しく真が機転を利かせ、俺もまたそれに便乗する。 力「ん……やっぱ黙っておくわけにはいかねーだろ?」 愛「それ…だけ?」 力「それだけだって。ん…気にしすぎ…」 そう言って俺は彼女の頬をそっと撫でた。 すると、その瞬間、何を思ったか水月は俺の背中に腕を回して抱きついた。 力「水月?」 愛「…もうっ……心配したんだから…っ…」 人目も憚らず、俺の胸に顔を埋める彼女。 俺もまた彼女の背中に腕を回した。 力「ごめんな…心配かけさせて…」 そんな俺達を見守る崎田と真は苦笑い。 (ありがとな…) 俺は二人に目で合図を送った。 すると、二人は気を利かせて、 崎「じゃぁ、俺はちょっと休憩して後半流してくるかな。」 真「あ!俺はそろそろ由利んトコいかねーとまた怒られるしっ」 二人が去った後、俺たちは暫く抱き合っていた。 力「もう泣くなって…」 愛「だって……力が甲子園行けなくなるんじゃないかって…グスッ…」 俺が祐を殴るとでも思っていたのだろうか。 力「おまえなぁ、俺が何の為におまえと離れて池川になんか行ってんだよ?」 愛「え?甲子園行く為でしょ?」 確かにそれはそうだ。 力「そうそう、甲子園に行って優勝する為ってのもある。」 だけど、今の俺はもっと先を見ている。 卒業後のこと――… (水月は先のことなんか全然考えてねーのかなぁ…) 愛「…『ってのも』って……えっ?他にも何かあるの?」 (あぁ……やっぱり何も考えていねーのか…?) 彼女との温度差に俺は少し凹んでしまった。 力「…っつーか、あのさ、おまえ、卒業後ってどう考えてるわけ?」 この際だからと、俺は思い切って水月に将来のことを聞いてみることにした。 愛「え?…なんでそんなコト聞くの?」 その驚いた表情からは将来なんて考えてるようには到底思えない。 力「…いや、別に……俺はプ…」 一瞬…、俺は『プロ』とか言う言葉が出そうになり、自分のその無意識に出ようとした台詞に驚いた。 やっぱり俺は水月の為に走るとか言いながらも高校卒業後のその『プロ』への道を諦められないのだろうか。 そんな俺を水月がジッと見つめていたかと思うと、 愛「卒業後かぁ…。…そうだね、うん。私は卒業したら大学に行くにしても行かないにしても力と一緒がいいなって思ってるよ。えっとね、大学なら一緒のキャンパスで講義受けてね、一緒にサボったりもしてね。で、もし力がプロに行くんだったら…そうだなぁ……一緒についていってご飯とか作ってあげたいな…なんてねっ」 彼女のそのセリフの破壊力といったらハンパない。 俺は彼女をまた腕の中へと引き寄せた。
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