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このまま後退すれば倒れてしまう。
愛「お願いだから……」
なんとかその状況から抜け出したい一心で祐に私は言った。
だけど、祐は――
祐「…離れたくないって言ったら?」
暗闇の中で私を見つめるその妖しい瞳――
……ドクンッ……
祐のその瞳に吸い込まれそうになる――…
(…ダメっ!見ちゃダメっ!)
私は慌てて彼から目を背けた。
祐「…冗談だよ…クスッ…」
スッとその上体を上げた祐。
ようやくその危険な状況から抜け出した私は安堵した。
そんな祐がポケットに手を突っ込んでガサガサ言わせている。
祐「愛梨も…いる?」
取り出したのはさっきくれたチョコの包み紙。
また、さっきのようなことになっても困るから私は首を横に振った。
愛「いい…いらない。」
祐「そう?じゃぁ、さっきとは違うのあげるよ。」
そう言って今度は透明な色の袋に入ったどこにでもありそうなチョコレートを出してきた。
祐「これ食べなよ?」
愛「…え?いいの?」
祐「うん。気に入るかどうか分かんないけどさ。さっきの口直しになるんじゃないかな?」
愛「ありがとう…」
さっきのチョコの後味がまだ喉の奥に残っていた私は、それがどんなチョコかも確認することもなく口へと放り込んだ。
溶け出す味は紛れもなくチョコレート。
(…ん?……えっ……)
祐「どうか……した?」
愛「…えっ…だ…って……コレ…んぐー……うぇ……」
徐々に口の中で広がったその味はさっきとはまた違ってもっともっと苦い味。
さっきのラム酒とはまた違うサラサラしたその液体が、ドンドン私の喉を刺激していく――
愛「…ゆ……祐……コレ……な…に?」
吐いてしまいたいけれど、吐けない。
たまらず、私は手でチョコが出ないように口を押さえた。
祐「…おかしいな……フツーのチョコだと思ってたのに……」
目の前がまたゆらゆら揺れていく――
そんな私を祐は覗き込んだ。
祐「…ねぇ……どんな味?」
愛「えっ……なんか……苦くてキモチわるい……」
あまりの気持ち悪さに、祐が至近距離にいるというその重大さも私は理解できずにいた。
祐「ゴメン……それもお酒入ってた…?…俺、酒入りって好きなんだ。」
そういうと、どこからか祐はペットボトルを持ってきた。
祐「飲む?」
口の中のその苦さに耐えられなくて私は首を縦に振った。
愛「…祐…お願い……早く……」
祐はそのペットボトルのキャップを開けた。
そして、なぜか私の傍に座ると、いきなり、私を引き寄せて━━
……グイッ……
愛「…んー……んー…んぐっ…ごくっ……」
あろうことか、祐は口移しでそのお茶を流し込んだ。
祐「…飲めた?」
背後から妖しい瞳で私を覗き込む祐。
私は呆然としていた。
祐「ごめん……ちょっと零れたみたい……」
そういうと、唇から少し流れ落ちた水滴を祐はその唇で啄んで――
祐「…こんなに……チュッ……濡れてる……クスッ…」
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