十字架

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由「これ洗っておくよ。」 そう言ってさっきまで私が着ていたその服を由利ちゃんは持って1階へと下りていった。 由利ちゃんの家にきてから暫くしてようやく私の気持ちは落ち着こうとしていた。 数時間前、私に起こったあの出来事――― それはあまりにも衝撃だった。 そしてその余韻はまだ少しカラダに残っている。 抑えつけられていた腕に少し残る跡、そして搔き乱されたその場所に残る感覚はまだ消えそうもない。 初めて見たあんな祐の『男』の顔――… 怖かった。 でも、どうしてだろう。 あんなことをされたというのに私は彼を嫌いになれない。 刻みつけられる度に感じた彼のその想いは、痛いほど私の胸に突き刺さった。 と同時にあの頃の想いがフラッシュバックして――… 幼い頃…想っていた祐への想い―― あの頃の私は幸せだった。 祐と過ごす全ての瞬間が輝いていた。 その彼が再び私の目の前に現れた。 私が望んだ理想の王子様のようになって―― そんな祐が私を求めてくれている。 あの日のままなら私はそれを受け入れられただろう。 だけど、今はもう――…… 祐とのコトは過去のこと。 勝手かもしれないけど、できればちゃんとした思い出にしたい。 私は力と前を向いて歩いていくって決めたんだから――― 正直、祐にあんなコトされてショックじゃないって言ったら嘘になる。 でも、あんなことされても仕方がないのかもしれない。 考えてみれば、私が祐にしたことは本当に酷いことだ。 祐を信じられず、祐を裏切って、気持ちを断ち切るように力を好きになって―― 祐をあんな風にさせたのは私。 だから祐を責めることなんて私にはできない。 だけど、あの行為は力に対しての裏切り。 いずれ彼に今日のことをきちんと話そうと思っている。 力には隠し事なんてしたくない。 だけど、今は言えない。 彼の選手権が終わるまでは――…
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