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俺は思わずたじろいだ。
(…バ…バレてる!?つか、充電…って…)
橋本「水月クンと『かなり』仲良くやってたらしいじゃないか。」
力「…いや…その……っ…」
一瞬にして背中に嫌な感じの汗が流れた。
監督には完全に俺の休暇中の様子がバレているようだ。
橋本「それでオマエのやる気が起こったのなら俺は全然構わないんだがな。まぁ、水月クンにはまた大事な試合の時は来てもらうとして十分チカラを借りないとな…クッ…」
監督は最初からそのつもりだったのだろう。
そもそもGWといえば、練習試合が結構組まれているというのにどうしていとも簡単に俺にだけ休暇を与えたのか不思議だった。
橋本「とにかく、次の選手権の予選は必ず勝ってくれ。もちろん、おまえがエースだ!それと、この夏が終わったら……藤沢、おまえがキャプテンだ。そして4番で打て!」
以前の俺ならそれは素直に有難く喜ばしいことだった。
だが、今は俺にとっては複雑で――
力「…監督……俺には荷が重過ぎます。」
橋本「ん?どうした。おまえらしくないな。最後の夏だぞ?しかもおまえなら甲子園に出ればスカウトの目にも留まる。プロだって夢じゃないんだぞ?」
正直、監督の気持ちはかなり嬉しい。
いや、こんな計らいは野球冥利に尽きるってもんだ。
しかし、俺は――…
力「監督……他のヤツを4番にしてやって下さい。それとキャプテンも俺は引き受けられません……」
こんなセリフ、吐きたくなんかなかった。
これまで俺に目をかけてくれた監督に申し訳無さ過ぎる。
橋本「…藤沢……おまえ、池川に何しに来たんだ?」
監督が怪訝そうな顔で俺を見つめていた。
橋本「おまえは野球が好きだからこの学校に来たんじゃないのか?しかも、わざわざこの県外の学校に……。それも坂田のいる陸上の名門校の推薦も蹴って水月クンとも離れ離れになってまで……」
俺は……確かに野球がしたかった。
けどあの時、俺が池川に行くことを決めたのは、跳躍ができず苦しむ水月の支えになりたかったというのが一番の理由だ。
彼女の傍にいてやりたい――
祐に傷つけられ、苦しむ彼女を何とか立ち直らせてまた跳ばせてやりたい。
彼女が俺を好きなってくれなくても、彼女の傍に少しでもいたい。
そんな時、偶然見た池川の受験要項。
そして、スポーツの記録が内申として優遇されるということを担任から聞いたからこそ俺は池川へ行くことを決心した。
そうすることで、残りの中学生活を水月と同じ陸上部で過ごすことができる。
俺自身も記録を出せば、憧れていた高校へ進学できるからと――
そして、俺になど振り向いてくれないだろう水月をきっと諦められるんじゃないかって。
あの時、水月の傍にいるコトを最優先したからの結果が今だ。
だが、皮肉にも彼女は俺に振り向いてくれた。
池川にきたことは後悔していない。
だけど、俺を想ってくれる彼女を残してきたことには悔いが残っている。
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