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力「…まぁ、いいや。俺さぁー、絶対に選手権で優勝すっからさ。おまえの為に投げ抜く。で、ウィニングボールはおまえにやるから…」
前から俺は思っていた。
選手権で優勝することができたら必ずそのボールは水月にやりたいって。
愛「えっ!?ウィニングボールってそんな大切なもの貰えないよ。力の宝物にしなよ?」
力「何言ってんだよ。どうせ、おまえは俺のものだし、それにいずれはそのウィニングボールごと俺のものになるわけだしさ…ハハッ…」
俺は祐との勝負にもし勝つことができたら、卒業後は彼女を本当に『俺のもの』にしようと思っていた。
力「水月……あのさ……こんなこと電話で言うようなことじゃねーんだろうけど…」
愛「うん?」
力「…高校卒業したらさ、俺、おまえにはずっと俺の傍にいて欲しいんだよ。…あ……もちろんおまえがしたいことは好きにしたらいいと思う。けど、俺の傍で……そのやって欲しいんだ……」
それは俺のプロポーズ的な言葉――
その意味を彼女は理解できるだろうか?
愛「うん、いいよっ。私、そのつもりだよ?」
それは俺にオッケーをくれたということだろうか。
いや……だが、なんか軽いその返事に俺はしっくりこない。
(まさかと思うが、水月のヤツ、俺の言った意味……全然、理解ってねー?)
愛「…力……プロに行きたいんだよね?」
(えっ?プロ?)
愛「もし行くんだったら……私…一緒について行ってもいいんだよね?」
水月は、これからも俺は野球を続けると思っているに違いない。
力「…まぁ、行けたら…な……」
行けるも何も、三年になって俺が野球を続けているかどうかも分からないというのに。
その水月の言葉はかなり俺を複雑な気分にさせるものだった。
愛「…んー…楽しみー…。あ、でも、前にも言ってたけど、大学で野球するっていうんだったら、行く大学、早めに教えてよね?私、受験勉強しないと。力の学校のレベルって凄く高いみたいだし、私、めちゃくちゃ頑張らないと同じ大学になんて入れないと思うから…」
そんな俺との未来を夢見て思いを語る水月。
(…大学……それもいいいかもな。俺も卒業後は水月と一緒にいてぇよ…)
力「そっか。だったら、俺がまた『たこ焼き』付きで勉強教えてやるよ。」
うまくいけばの話だが、受験シーズンにはおそらく全てのコトが一段落しているだろう。
そうなると俺も週末、水月に会いに帰れるかもしれない。
愛「たこ焼きっ!そういえば、この前のGWの時に食べなかったよね?今度帰ってきたら絶対一緒に食べに行こうよ?」
力「…いいよ……行こう…。水月の行きたいところはどこでも付き合うよ。」
愛「ホント?じゃぁ、今度は遊園地とか行きたいなー…なんて…」
彼女の弾むその声が今の俺にとって一番のチカラになりそうだ。
力「あー…いいなぁ、それ。俺、絶叫系めっちゃ好きなんだけどさ…」
愛「ホントー? 私も大好きっ!でも高いところはちょっと怖いから目閉じちゃうかも…」
普通の彼氏彼女間なら、それはかなりのパーセンテージで早いうちに叶うコト。
だけど、俺達にとったらそれはかなり難しいことで――
力「…ん……必ず連れて行くよ。…で、観覧車の中でヤるぞ!水月、おまえ、思いっきり絶叫しろよっ?」
愛「…ちょ…バカ……もうっ!えっち!」
力「わはは……冗談だって!」
俺たちにとってささやかな幸せな時間が流れる――……
それを打ち砕く現実がこの直後に待っているなんて、この時、俺たちは全く気づいていなかった―――
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