彼女のために

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だが、それはそんなに簡単に片付くものじゃないことを俺は知っている。 今、こいつの知らないところで、とんでもないことが起こっている。 自分が大泉の許婚であるということを彼女はまだ知らない。 そしてその事実を知っているにも関わらず、これまでずっとひた隠しにしてきた愛梨の家族。 藤沢もまた同じようにその事実を伝えようとしない。 自分がなんとかしてやりたいというその気持ちは分からないわけではない。 しかし、藤沢が彼女の為に一人でしようとしていることはあまりにリスクが高すぎる。 うまくいけば問題ない。 しかし、もし失敗すれば――…… 果たして、ヤツに勝算はあるのだろうか。 それでも、彼女の為なら『ない勝算』でも『ある勝算』に藤沢は無理矢理にでも変えてしまいそうではあるが。 由利の話では、愛梨は大泉の『愛梨への想い』を込めたその走りを高校生活の残りの二年間、最後まで見ようと決めたとか。 そして、また愛梨も『400』を走る自分を大泉に見てもらって、藤沢への自分の気持ちを分かってもらおうと思っているらしい。 だが、そんなコトで大泉が愛梨から手を引くなんて俺には考えられない。 そんな彼女を傍で見ていたら、逆に大泉は余計に愛梨を手離したくなくなってしまうんじゃないかと俺は思う。 それに、彼女のその走りに込められた藤沢に対する想いが、また大泉の気持ちを逆撫でするのではないかと。 翔「なぁ……大泉を裏切った……傷つけたって……どういうことだよ?」 愛「…それは……私が彼はもう私のコトなんか好きじゃないって勝手に勘違いして……もう終わったと思ってて……」 (愛梨の勝手な勘違い?じゃぁ、二人はずっと想い合っていたのにその勘違いでダメになってしまったというのか?) そして、そのまま大泉の本当の気持ちに気づかずに愛梨は元親友の藤沢とそういう関係になって―― 俺的にはかなり大泉に同情してしまう。 けど、それも今となれば運命だったと言うしかないのだろう。 愛「先輩、私……今はホントに力が好きなんです。だからもう祐のことは…」 翔「…分かってるよ……」 愛梨がどれだけ藤沢を想っているかなんて嫌というほど知っている。 愛「それに、私……卒業したらもう力と離れないって決めてるし…」 翔「え…」
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