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彼女は真剣な表情で俺を見ていた。
(…卒業したら……離れないって……それってまさか……)
幸せそうな愛梨の表情は彼女がいよいよ俺の手の届かないところにいってしまうことを意味していた。
もちろん俺は愛梨と藤沢がうまくいけばと思ってはいた。
だけど、いざそういう現実的なことを聞くとなんていうか複雑な気分になった。
翔「…おまえ……一生の問題なのに……そんな簡単に決めていいのかよ?」
愛「…ん…だって私には彼しかいないし。それに……私、もう彼との未来しか考えられないから…」
……グサッ……
思ったよりも彼女のその言葉が俺に突き刺さった。
だけど、そんな風に藤沢を想いながら話す愛梨の幸せそうなその表情を見れば俺も納得せざるを得ない。
翔「そっかー……」
愛「だから彼と一緒にいられるようになるその日まで、力がめいっぱい頑張れるように今は心配はかけたくないんです。彼には絶対に甲子園での夢……叶えて欲しい。その為だったら私、どんなことだって…」
そんな決意を語る愛梨の目は今まで見たことのないようなチカラ強さをもっていた。
翔「…あー……なんつーか……恋する女っつーのは強ぇーのな。」
好きな男の為なら愛梨は何でもやりそうだ。
いや元々、愛梨自身、そういった一生懸命な性格なのだと思う。
俺なんかの為にだって一生懸命になってくれた。
そんな彼女に俺はいつしか惹かれてしまっていた。
そしてそれは大泉に対しても――…
愛「私、強くなろうって決めたんです。あ…この前、先輩も会った私の幼なじみの由利ちゃん、彼女みたいになりたいって。」
(…げっ……由利って……あの暴力女みたいに……かよ…)
翔「…それはやめておいた方が…」
愛「先輩、由利ちゃんのコト、すっごい誤解してますよ?由利ちゃんはね、先輩と同じで、正義感が強いし優しい人なんですよ?」
(俺が…正義感?優しい?)
そんなこと初めて言われたような気がする。
その愛梨の言葉は俺を調子づけた。
翔「そうか。ん、まぁ、そう強くあってもらわないといけないんだけどな。六月の試合も迫ってきてるし…」
GWも終わり、藤沢が選手権予選に入ると同時に俺たちの地区予選も始まろうとしていた。
愛「そうですよ。だから先輩も、そのおかしな跳び方、早く直しておいてくださいね…クスクスッ…」
翔「…おま……なんだ、それ!?」
そう言うとなぜか愛梨は部室の方へ向かおうとする。
翔「おい、こらっ……おまえ、練習は?」
愛「あ……私、今日はこの辺で上がろうかと…」
翔「つーか…おまえ……まだ終わるには早ぇーだろ?」
まだダウンするにはいつもより二時間も早い。
愛「あれ?私、先輩には言ってなかったかなぁ?今日はおばあちゃんのお見舞いに行く日なので…」
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