彼女のために

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愛梨が去った後、俺はひとりマットのところへと戻ってきていた。 (あー……つまんねーなぁ……) 愛梨は帰っちまったし、もう少ししたらあの小姑の沙希がやってくる。 しかも、今日の俺はやる気がない。 ……バサァ……… 俺はマットにそのまま転がり空を仰いだ。 (あいつ……元気なフリしてっけど、なんか我慢してるっぽいんだよなぁ……なんつーか……守ってやらねーといけねーって感じで目が離せねぇし…) あの日、あの由利ってヤツから電話があった。 とりあえず愛梨は大丈夫だと―― ただ、必死で頑張ろうとしていて危なっかしいから、当分学校での様子を注意深く見ていてくれと俺は言われた。 あれから大泉が学校にきていないということで、今は何とか穏やかに過ごせている気がする。 まぁ、彼女も強くなろうと頑張っているからというのもあるが。 だけど、いずれ大泉は学校に出てくる。 そうなると今のように彼女は穏やかにいられるだろうか。 そういえば、あれから藤沢はどうしただろう。 アイツ……あの許嫁の件………一体どうするつもりなんだろうか。 崎田の話によると、野球は二年の夏で辞めて、三年のインターハイで走るとか言っていたが。 そんなこと、池川の監督が許すだろうか。 あんなハンパじゃないレベルのエースを手離すはずがないと俺は思う。 あれだけの野球名門校だ。 ヘタしたら、女は諦めろと言われても不思議じゃない。 けど、藤沢のコトだ。 愛梨の為ならどんな手段をとってもおそらく大泉と同じ舞台には上がってくるだろう。 だが、大泉は今年のインターハイ優勝候補として既に名が挙がっている。 中学の時もかなり活躍していたのは坂田からも聞いているし、俺もこの目で見ているから分かっているが、高校に入ってからの大泉はまた更にレベルが上がっている。 そんな大泉にブランクのある藤沢がどこまで食らいつけるか。 一年やそこらでどうにかなるレベルじゃない気がするのだが。 マジで藤沢はどうするつもりなんだろう。
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