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祖母「…そうかい。旅館の息子さんねぇ。」
愛「うん。そうなんだ。それもすっごく大きな旅館でね。お部屋も綺麗だし、中庭なんて見たことないようなカンジで私驚いちゃった。」
私はお祖母ちゃんに彼が帰省していた際のことを話していた。
愛「…でね、この前なんかお茶席があってね。私、力のお母さんに着物着せてもらって、お化粧までしてもらって…」
祖母「え?まさか……愛梨……そのお茶席に出たのかい?」
愛「うん。でね、そのお茶席ってお祖母ちゃんに教えてもらってた同じ裏千家だったからすっごくそれが役に立ったの。」
まさか、私も力の家でお茶席に出席するなんて思ってもみなかった。
でも、お祖母ちゃんのおかげで恥ずかしい思いもしなくて済んだし、逆に力には誉められたから嬉しかったし、やってて良かったと心から思った。
愛「お祖母ちゃんのおかげだよ。ありがとう。」
祖母「そうかい。それは良かったよ。私も教えた甲斐があったよ。」
お祖母ちゃんは嬉しそうに頷いた。
愛「うん。でね、そのお茶席でね……」
お祖母ちゃんに一番聞きたかったこと――……
(…聞いても……いいよね?)
私はお祖母ちゃんの顔をちらりと見た。
祖母「なんだい?」
愛「あ…あのね……」
やっぱり聞いてみたい。
あのこと――…
愛「…力のお母さんと伯父さんから聞かれたんだけど……お祖母ちゃん……その……『源蔵さん』って知ってる?」
祖母「…源…蔵……?」
一瞬、お祖母ちゃんの表情が固まったのを私は見逃さなかった。
そして、何かを思い出したような顔をして少し目を細めて――…
(……やっぱり……お祖母ちゃん……知ってるんだ…)
『源蔵さん』と言うのは力のお祖父さんの名前。
そして、力のお母さんと伯父さんの話が本当ならば、その人はお祖母ちゃんの昔の彼氏の名前。
祖母「…愛梨……その名前をどこで……?」
お祖母ちゃんも力のお祖父ちゃんのコトを覚えていたのだと思った。
(お祖母ちゃん……力のお祖父ちゃんもお祖母ちゃんのコトを忘れてなかったんだよ?)
そのことをお祖母ちゃんに伝えてあげなければいけない。
私はお祖母ちゃんの顔を見据えた。
愛「…お祖母ちゃん……源蔵さんってね……力のお祖父さんなんだって。」
祖母「えっ…」
愛「私の彼氏の苗字って『藤沢』って言うの。」
そして、その直後、今度はお祖母ちゃんの口から思いもしない言葉が飛び出した。
祖母「……で、その『ツトム』って漢字はもしかすると…『チカラ』とも読む?」
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