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私たちは病院のエントランスから少し離れたところにあるベンチに座っていた。
そこはバス停が近く、さっきから私たちの前をバスが定期的に次々と通り過ぎていく。
(…あのバスにも……乗れなかったな……)
いつの間にか、少し日が暮れて病院の敷地内にある電灯が点灯しはじめた。
ふと病棟の方を見ると、中央入口付近にある時計の針が18時半をさしていた。
さっきの話を説明すると言って私を引き留めた祐。
でも、彼はまだ少し躊躇っているようで言葉を発せないでいる。
きっとそれほどまでにそれは重要で言いにくいことなんだろう。
さっきの祐のお祖父さんとお母さんが話していたことはあの雰囲気からいってもおそらく本当のこと。
家に帰ったらお母さんがきっとそのことを話してくれるとは思う。
でも、お母さんのことだから、私のことを考えて本当のことを言ってくれない可能性もある。
だけど、祐ならちゃんと事実を隠さず伝えてくれると思う。
だったら本当のことを私は知りたい。
愛「…祐……私、ちゃんと聞きたいよ…」
隣に座る祐がその視線を私に移した。
祐「ん……そうだよね……うん……」
愛「ねぇ……さっきの話って……」
祐のお祖父さんの話では、私は『祐の許婚』だとのことだった。
あの日の別れがなければきっと私はその事実が嬉しかっただろうし、受け入れることができたと思う。
でも、今はその事実が複雑に思えるし、受け入れるのは難しい。
私には力がいる。
私の未来は彼としか考えられない。
だからそれは嘘であって欲しい。
自分だけの都合で言えば、本当であっても祐の口から打ち消す言葉が出て欲しいと思っていた。
けれど、次の瞬間、祐の口から放たれた言葉は私の期待を思いっきり裏切ってくれた。
祐「…嘘じゃないよ……愛梨……おまえは俺の…許婚だよ……」
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