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彼女は唇を噛みしめていた。
そして何かを俺に言おうとしている。
力「…水月……?」
視線が交わると彼女は意を決したような顔で俺を見据えた。
愛「…力に言わなきゃいけないことあるの…」
それは覚悟をした目だった。
愛「…力……驚かないでね?…私ね……祐の許婚だったの…」
彼女は知らないはずだった。
それは今後も知らせないつもりだった。
だけど、なぜなのか彼女はそれを知っていた。
力「…おまえ……それ……」
愛「今日ね、お祖母ちゃんのお見舞いに行くって言ってたでしょ?そこで偶然聞いちゃったの。お母さんと祐のお祖父さんが話しているの…」
まさかこんなにも早く彼女の耳にそれが入るとは思ってもいなかった。
(今日……バレた…のか……)
力「水月。なんで祐の祖父さんがおまえのばーちゃんと同じ病院にいたんだ?」
愛「ん……祐のね、お母さんも私のお祖母ちゃんと同じ病院に入院してて…」
(同じ病院って……水月のばーちゃんって確か……)
力「…もしかして……ガン…なのか?」
水月はコクリと頷いた。
そして、その瞳に涙を浮かべて、
愛「祐のお母さん……あまり長くないんだって…」
祐の母さんはまだ若いはず。
まだ逝くには早過ぎる。
力「…マジ……かよ……」
愛「うん。だからなのか、祐、最近学校来てなかったの。お母さんの傍にいてあげてたみたいなの…」
祐は昔っからどちらかと言えば、母さんっ子だった。
祐の母さんの第一印象は優しそうな感じで、祐のすることは何ひとつ口出しせず、ただ見守っている感じの人だった。
小学生の頃、野球の試合の時によく祐の母さんを見かけたが、息子の邪魔にならないようにと遠い場所からそっと見ていた記憶がある。
そして、近所で幼なじみの水月のことを凄く気に入っていたようで、試合中は一緒に座ってよく話をしていたのを俺は覚えている。
祐にとっても母親というのはもちろん大切な存在であろう。
そしてまた水月にとっても祐の母親は幼い頃とはいえ、よく世話になっていた初恋の人のお母さんでその存在は特別なはずだ。
愛「祐のお母さん……あまり良くないから。今回のコトも知らせてないの。あ……さっきまで祐のお父さんがいたんだけど、お母さんのところに行ったみたい。お祖父さんも祐をこんな目に合わせた人達のことでなんかバタバタしてるみたいだし…。だからね、祐の傍には誰もいないの……」
そういうと水月は祐の方へと行きその手をギュッと握りしめこう言った。
愛「…祐には……私がついていてあげないと……」
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