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そこには愛おしそうに祐を見つめる水月の姿があった。
……ドクンッ………
俺はそんな彼女を見ていると胸が締め付けられそうになった。
それと同時に俺はそんな自分が凄く嫌だと感じた。
祐は生死を彷徨っている。
それなのに俺はそんな祐に嫉妬してしまっていて――
水月の祐を見るその瞳――…
それは、あの頃……水月が祐を想っていたあの瞬間と同じだった。
祐を想い、せつなさそうにしていたあの頃と同じ――
俺もまたあの頃の自分の立場に引き戻されそうになる。
水月に片想いをしていたあの頃の自分に――…
俺は思わず頭を振った。
(なに引き戻されてんだよっ…!今は違うじゃねーかっ。水月はもう祐の女じゃない……俺の女なんだから…)
そんな俺に水月は思わぬことを言った。
愛「…祐も……私と同じような気持ちだったのかな……」
突然のその彼女の言葉に俺の胸が更に締めつけられた。
水月は自分が生死を彷徨っていたあの時のことを思い出しているに違いない。
あの日、俺は水月の友達と一緒に彼女の入院する病院へ見舞いへ行った。
しかし、そこで待ち構えていたのは『面会謝絶』という病室の前に掲げられた看板。
そして、水月の母親から聞いたその彼女の危険な状態に、祐なら何とかできるのではと、俺は家に帰って早々、祐に連絡を取った。
その直後、祐は水月の元へと向かって――
なんと祐は……眠り続けていた水月を呼び覚ませた。
あの時、それは奇跡じゃないかと俺は思った。
信じられないことに、祐が彼女の手を握った瞬間に彼女が目を覚ました。
あの時、俺は祐と水月の深い『絆』を嫌と言うほど思い知らされた。
そして、祐が水月を迎えにくるその日まで彼女を守り続けようと決め、自分の水月へ向かいつつある気持ちを封印した。
しかし、その『絆』は中学二年のあの県大会で切れてしまい―――
俺はあの日から祐に遠慮しないで水月を全力で掻っ攫いにいった。
そして、俺たちは今――
けれど、その水月と祐の『絆』は完全に断ち切れてなかったのかもしれない。
自分には絶対に入り込めない領域がそこにはあった。
愛「…今度はね……私が祐を助ける番なの…」
そう言って水月は祐の手を握りしめなおして目を閉じた。
愛「…祐……起きてよ…」
その瞬間、信じられないことが起こった。
祐のカラダがピクリと動いた。
祐「……梨………あ…っ……愛……梨…っ…」
目を閉じたまま苦しそうな顔で祐は水月を呼んでいた。
愛「…祐っ!いるよ…? 私…いるから!だから…祐っ…戻ってきて…」
祐「……梨…っ………行く…なっ……行か…ない…で…」
愛「…行かないよ……いるから……祐の傍にいるっ……だから……祐…っ…」
彼女の声が聴こえたからだろうか。
祐はその苦しそうな表情を緩め、またスッと眠りに入っていく――
水月はそんな祐を潤んだ瞳で見つめていた。
そして、手はしっかりと祐の手を握りしめたまま、残りの片方の手で枕元にあったタオルを取ると祐の額に滲む汗をそっと拭いた。
愛「…良かった……また落ち着いた……」
水月が祐を見つめながら悲しそうに笑う。
力「…『また』……って?」
愛「ん……さっきみたいなことの繰り返しなの。私のこと…祐は心配してるんだと思う。…私を…必死に守ろうとしてくれてたみたいだから…」
力「…おまえを……守る?」
愛「…祐……私を守る為に……私が祐の許婚だったから…」
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