必然の出逢い

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小笠原「社長は先回りしてことごとく祐人様の職を奪いました。その度、祐人様と社長の仲は拗れていきました。そんな時、二人を見かねた親友の愛梨様のお祖父様が社長に話を持ちかけたそうです。『私におまえの息子を任せてくれないか』と……」 力「え?水月の祖父さんが?」 小笠原「えぇ。元々、愛梨様のお祖父様と祐人様は面識がありました。しかも、祐人様は社長には懐かないのに愛梨様のお祖父様には何故か心を許しているようでした。愛梨様のお祖父様はお堅い方ではありましたが、どちらかと言えば聞き上手な方でしたから…」 仕事ばかりで子供の意見など全く聞かずに将来を決めてしまう親など心なんて許せるはずがない。 それに比べて水月の祖父さんは聞き上手となるとそりゃそっちに普通は靡くというものだろう。 小笠原「愛梨様のお祖父様は『後継者問題を必ず解決してやる』と社長に言われたそうで、そういうことならばと社長は祐人様を親友の愛梨様のお祖父様にお任せしたそうです。それから暫くして、愛梨様のお祖父様は祐人様に仕事を紹介しました。そして、暫くして祐様がお生まれになったのです。」 力「けど、祐の父さんは大泉グループを継いでねーよな?」 小笠原「はい……いえ、その方向に愛梨様のお祖父様はうまくもっていってはいたのです。その後、祐人様も愛梨様のお祖父様とお話をされていろいろと考えられたようで…」 力「じゃぁ、なんで祐の父さんは……?」 小笠原「それが……それから暫くして、いよいよ後継者問題がグループ内で活発化してきた時、今回の祐様同様、祐人様のお命が狙われているといった情報が流れてきまして……危険を感じとった愛梨様のお祖父様は祐人様とそのご家族を誰にも分からないように、当分追っ手がつきそうにない愛梨様の家の傍に引越をさせたのです。祐人様には既にそのご子息の祐様もおられましたし、何かあっては大変だと……」 あんな大きなグループの息子に生まれたばかりに大変な思いをしなければいけなかった祐の父さんに俺は同情してしまった。 俺もいずれうちの旅館の経営者になるということで、小さい頃から旅館の心得とか嗜みみたいなものを散々仕込まれて苦痛だったが、そんなものに比べるにも値しないレベルだ。 小笠原「引っ越された祐人様達はそれは穏やかな生活を送っておりました。そんな中、祐様と愛梨様が出逢われました。確かあれはお二人が五才になった頃だと聞いております。七五三の時に近所の神社で偶然にも出逢ったと祐様は言っておりましたが。…実は……あれは偶然ではなかったのです。」 力「…えっ……偶然じゃないって…」 小笠原「あれは愛梨様のお祖父様が偶然を装い、二人が出逢うよう仕向けたのものです。」 俺は今まで祐と水月の間で起こったことは全て運命だと思っていた。 だが、あの二人の出逢いは、作り上げられた『必然の出来事』だったというのか? 力「…そんなことって……」 俺はその事実に驚きを隠せなかった。 自分達の人生を自分達以外の誰かによって二人は動かされ、その道を進むように仕向けられていたという事実。 けど、人の心までそんな簡単に動かせるものなのだろうか。
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