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小笠原「偶然を仕向けるしかなかったのかもしれません。祐様もまた大切な大泉グループの跡継ぎでしたから。愛梨様のお祖父様は祐様に何かあってはと祐様を自分の孫の愛梨様と同じ幼稚園や小学校に通わせるように仕向けたそうです。当時の祐様はかなり内気な性格で、祐人様や奥様にあまりお話をされなかったらしく…」
小学生の頃の俺の記憶。
小笠原が言うように祐は確かに内気な性格だったように思う。
水月のことを揶揄われるのもかなり嫌だったのか俺たちの前では彼女にわざと冷たくしたり。
気持ちは完全に水月にもってかれてるのなんて見れば分かるのにクールぶっていた祐。
あの頃から自分の気持ちを隠す傾向にあった。
小笠原「ですから、活発でお話上手だった愛梨様に祐様の様子を見ていてもらおうと考えたのでしょう。一緒にいれば、祐様の様子をそれとなく聞けると考えたのではないかと…」
俺が水月と出逢った時、あの頃の彼女は確かに活発だった。
既に祐にベタ惚れだった水月はとにかく祐と一緒にいたい感じでいつもベッタリしていた。
祐は嫌そうにしていたが。
祐といればもれなく水月がついてくると言っても過言ではないほど、水月は祐を追っかけ回していた。
水月を情報収集の為に利用するのは確かに賢明な策だっただろう。
小笠原「しかし、愛梨様のお祖父様はまさか孫の愛梨様が祐様に一目惚れすると思っていなかったようでして。愛梨様のお気持ちを知った時には、社長に対して少し後ろめたい気持ちがあったようでした。しかし、社長はそんなお二人の仲睦まじい姿をお喜びになったそうです。お二人を将来一緒にしてはどうかと愛梨様のお祖父様に提言したらしく。愛梨様のお祖父様は愛梨様の片想いのまま、いずれ終わりを向かえるだろうと思っていましたから…」
力「それで、祐と水月は……」
小笠原「えぇ。社長はお二人の気持ちを確認した上で婚約者としての正式な文書を用意されました。お二人は覚えていないかと思いますが、その書類にはお二人の指紋印も押しております。」
力「指紋印って!?」
ガキのくせにそんな書類にサインしたことに俺は驚きを隠せなかった。
小笠原「お二人が一緒におられた際にきちんと将来の話をされたそうです。そして、お二人はその書類にサインをなされたそうです。もちろん、社長と愛梨様のお祖父様も保証人として。」
まさか、そんな取り交わしまでしていたとは思いもしなかった。
正式な文書があるとは言っていたが、保証人まで。
完全に公的な文書だ。
小笠原「愛梨様は祐様と結婚できると当時、かなり喜んでいたそうです。祐様はかなり内気で照れ屋でしたから、表だっては仕方ないなという感じでその婚約を納得していたそうですが、内心は嬉しかったように見えたと。しかし、それをお二人はどうも覚えていないようですが……」
小笠原はフッと笑った。
そんな幼い日のことなど鮮明に覚えているはずはない。
だが、もしかしたら記憶を辿れば再び二人がそれを思い出すこともあるのではと俺は不安が過った。
そういえば、祐が俺に水月を紹介してくれたあの時、確か水月は祐のことを『婚約者』とか言っていた。
となると、記憶はなくても刷り込まれていたということだろうか。
力「けど今さらだよな?二人ともが覚えてねーようなもんだろ?意味ねーんじゃね?」
小笠原「いえ。決してそれは意味のないものではございません。あの文書はきちんとした公的なものです。法的には十分通じる書類になっております。そして、それに愛梨様のお祖父様の遺書もございます。祐様に愛梨様を託されるという内容だと聞いております。」
俺は水月の祖父さんを恨んだ。
(なんでんなもん残しやがってんだよ……つか、俺じゃなくても水月が将来祐以外に好きな男ができたらどうするんだっての…)
小笠原「社長はそれを入れたお守りを、大泉家に伝わるご利益のあるものだと言ってそれとなく祐様にお渡ししました。しかし、それがどういう意味を持っていたかを理解していなかった祐様は愛梨様とお別れになる際にそれを愛梨様にお守りとしてお渡ししてしまったようで……」
祐が転校していった小学四年の時、俺はこの目でそのお守りを祐が水月に渡すのを見ていた。
まさかそのお守りがそんな大それたものとは思いもしなかったが……
小笠原「あのお守りは祐様が愛梨様をお迎えに行く時の為に作られたものでした。」
力「だから渡しても問題なかった?」
小笠原「そうですね。いずれお渡しするものなので、社長は逆に良かったのでは?とおっしゃられていましたが、当時、周りはハラハラしていたとのことです。」
力「…ハラハラって……どういうことだよ?」
すると何故か小笠原は少しトーンダウンして、
小笠原「なぜなら……あのお守りの中には大泉家に伝わる……後継者の奥様になられる方がもつ億単位の指輪が入っておられましたから…」
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