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力「心当たりはねーのかよ?」
小笠原「申し訳ございません。ですが、少しだけ気になることはございます。」
力「気になること?」
小笠原「はい。あの日、入院されていた祐様のお母様が危険な状態に陥りまして。私、学校まで祐様をお連れしに行ったのです。その病院へ向かう途中、車の中で祐様は何度も溜息をついておられました。」
力「溜息?」
小笠原「えぇ。何度もご自身の手を見つめては頭を抱えられ……お辛いご様子でした。」
俺が祐の落ち込む姿を見たのは転校することが決まった時と、水月が危篤に陥ったあの日だけしかない。
それ以外で落ち込んでいるのを俺は見たことがない。
小笠原は執事だ。
その側近がそう思うということはよほどのことがあったのだろう。
(手を見て……頭を抱え……ん……手?その手が何かを……?…まさかな…)
一瞬過ぎったその悍ましい予感を俺は否定した。
(…絶対…そんな……あってたまるかよ…)
小笠原「祐様は奥様を心配されて、睡眠もあまり取らずに看病をされていました。その祐様の看病の甲斐もありまして、奥様は少し元気になられたようです。その直後でした。祐様が社長にお話をしたいからと私に言い出したのは…」
力「直後って……祐の母親が元気になってってことは祐の母さんの病気と関わってんじゃねーの?」
あまり長くないだろう母親を安心させる為に後継者を引き受けたとかは考えられないだろうか。
小笠原「どうでしょうか。私的にも今回のいきさつの中に奥様が関わっているような気もします。祐様は病室内で何時間も奥様とお話されていたこともございますし…」
力「話?」
小笠原「えぇ…。学校をお休みになっている間、いつも病室におられましたし、何か大事なお話をされていても不思議ではありません。祐様は母親である奥様を大変大事にされていました。心配させるようなことだけは絶対にしないともいつも言っておりましたから……」
祐は昔からそうだった。
無口ってのもあるのだが、必要以上のことは言わない。
周りに心配をかけるような真似や素振りなど見せたことない。
小笠原「正直言うとですね。今回、祐様が後継者を引き受けるといった際、私は祐様が愛梨様のお心を掴まれたのだと思いました。ですから、社長に会いに行く途中、祐様の口から出たお言葉に私はかなり驚きましたし信じられませんでした。『婚約は破棄にしてもらいたい』そして『母には彼女が大泉に嫁いでこないことを言わないで欲しい、この件が洩れないように徹底して欲しい』と言われまして……」
力「え?母親に言うなって?」
小笠原「はい。祐様なりのご配慮だったのだと思います。ですが、私は祐様が愛梨様がお傍にいない未来へ……後継者としての道を進んでいこうと決断されたことが心配でして…」
力「…心配…って?」
小笠原「あれだけ愛梨様がいない大泉グループには興味がないと言われていた祐様です。長い間、愛梨様を想い続けたその年月を思えば、そんな簡単に諦められるように私は思えませんでしたから。愛梨様を諦めるのはかなりお辛かったと思います。祐様は愛梨様をお迎えにいく為に今の高校も選ばれたくらいですから…」
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