必然の出逢い

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小笠原「…私どもが至らないが為に祐様は…」 小笠原は唇を噛み締めた。 小笠原「祐様は私達を守ろうとしてくれました。愛梨様をお守りする為にも逃げもせず…」 水月だけじゃなく自分の配下までも祐は守ろうとしていた。 本来なら自分が守られる側だというのにどうして…… 小笠原「私には祐様はそれほどまでに愛梨様を大切に思っておられたのだと思っています。私どもの為にも……祐様はお優しい方なのです。」 そんな祐がどうしてこんな目に合わなければいけないのか。 小笠原「祐人様から、祐様の夢はトップアスリートと言うことを私は聞いておりました。」 力「えっ?アスリート?」 小笠原「はい。世界に通じる走りをしたいと言っておられたようです。祐人様は息子である祐様を大泉グループの跡取りにはせず、できることならその夢を追いかけさせてあげたいと言っておりました。しかし、祐様はお母様思いの方でしたから、自分が後を継がないとなると、奥様が心配していたように、本当に祐人様と社長の仲が途切れてしまうのではないかと……何とかしたいと思われていたようでして…」 祐は言っていた。 『本当はやりたいことがあった』と。 それは、やはり走ることだった。 アイツは水月を想いながらその走りを極めて行きたかったのだろう。 小笠原「愛梨様が許婚であることが分かった時、少し腰を上げたように見受けられました。それでも、やはり祐様のその腰は完全には上がりませんでした。しかし、あの日、祐様は後継者を引き受けたのです。もしかすると、奥様の病状が悪化していく中で祐様の心の中で何か変化が起こったのかもしれないとも思っていたのですが。しかし、愛梨様との婚約を破棄して後継者の件を引き受けるなんて……やはり私には…」 小笠原の言うとおり、もしかしたら祐の母さんの病状の悪化が祐にその心の変化をもたらしたのかもしれない。 しかし、それだけで祐はあんな馬鹿デカいグループの後継者など引き受けるだろうか。 やはり俺はそれに水月のことも絡んでいるのではないかと疑ってしまう。 俺的に言わせれば、撃たれた理由だって、直接、水月になんて関係なんてないと思う。 命に関わるこの事態になったのはどちらかと言えば、部下を守って撃たれた方が原因だ。 それなのにあんなに思い詰めていた水月。 やはりそれ以前に二人の間に何かがあったからこそ、余計に水月も自分のせいだと気にしているのではないだろうか。 ……ブブブッ……… そこへどこからともなく、携帯のバイブ音らしき音が響いてくる。 小笠原「…失礼……」 小笠原の電話のようだ。 小笠原「…はい……えっ……あっ……えぇ…承知致しました。」 用件を手短に聞き終えた小笠原はその携帯をポケットの中へ戻すと俺に言った。 小笠原「お話が途中になるのですが、急ぎの用が。後ほどまたということで……」 力「祐に……何かあったのか?」 小笠原「いえ……そういう訳ではないのですが。祐様の妹の幸様が来られたようでして…」 そういえば、祐には妹がいたような気がする。 小笠原「幸様が来られましたら、愛梨様に少し休むよう言っておいて下さい。だいぶお疲れのようですし、お友達も心配しているでしょうから…」 力「…分かった……」 そして、俺はその病室へとまた足を踏み入れたのだった。
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