男のケジメ

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力が小笠原さんと別室に篭ってから一時間ほど経っただろうか。 私は祐のその手をしっかりと握りしめていた。 (……祐……) 小笠原さんの話だと彼は私を守る為にその大切な足を撃たれたという。 誰をも魅了する美しい走りをしていた祐。 その彼を撃つなんて―― 祐はどれだけ痛かっただろうか。 撃たれた痛みも凄かったと思う。 でもそれより、走りに自信のあったその足を撃たれたという事実にどれだけ心が痛んだだろう。 それを思うとまた涙が出そうになる。 私は祐の手を握りなおすとまた彼に声をかけた。 愛「…祐……大丈夫だよ。また走れるから。私にその走りを見せてくれるって言ってたもんね?私の走りも見てくれるって……約束したもんね?」 祐を握りしめる私のその手の甲に涙が落ちた。 私は片方の手でその手の甲についた涙を拭った。 もうすぐ、力が帰ってくるかもしれない。 (心配かけちゃダメだ……) そう思ったその瞬間、力と小笠原さんが奥の部屋から出てきた。 小笠原さんは出てきて早々部屋から出ていく。 そして力はその足で私と祐のいるベッドの方へと向かってきて、 力「…どうだ?…祐の様子は…」 私は力から顔を背けた。 愛「…あっ…うん……あんまり変わんない…かな…」 その私の言動がぎこちなかったからだろうか。 私の表情を確認しようと彼は私を覗き見る。 力「…また……おまえ泣いてたんだろ…」 フッと背中に彼の温もりが感じられた。 愛「…泣いて…ないよ……」 彼のその言葉が涙を誘う。 頭ではちゃんと分かってはいる。 でも、祐のこんな酷い状態を目の当たりにするとやっぱり私は辛くてたまらまい。 力「…そっか……ん……もうすぐしたらさ、祐の妹が来るんだって…」 愛「妹って……幸ちゃん…?」 力「らしいな。小笠原が下に迎えに行った…」 祐の妹の幸ちゃんと祐は3歳か4歳くらい離れていた。 祐のことが大好きでたまらなかったあの頃、私は祐の家によく遊びに行っていたのだけど、幸ちゃんともよく遊んでいた。 私を慕ってくれたあの幸ちゃん。 祐に少し似た――… 愛「…そうなんだ。懐かしい。でも、こんなところで再会するなんて……」 できることなら幸ちゃんとはこんなところで再会なんてしたくなかった。
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