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力が転部してきたとき、そのタイミングから、もしかすると力は私のことを気にして傍で支えてくれる為に野球部を辞めたのだと思っていた。
でも、当時の力はそれは違うと言っていた。
陸上部に転部したのは池川学院に入る為だと。
その受験に有利になるようにする為に陸上で実績を上げる為だからと言っていた。
そして、私のことは『ついで』と強調していたから私は安堵していた。
力「まぁ、甲子園に行きたいってのもあった。けどホントはさ、祐のコトで落ち込んでたおまえを何とかしてやりてーってのが一番でさ。ついでに俺もおまえと一緒に全国へ行きたかったんだよ。まぁ、うちの学校からは俺とおまえしか全国行けそーなヤツっていなかったじゃん?一緒に行けるってことはある意味一緒に二人っきりの卒業旅行だぞ?こんなおいしい話があるか?振り向いてくれねーんだったらせめて、好きなヤツとの思い出を作ってやろーって思って、俺、あの時メチャクチャ頑張ったんだぜ?…ハハッ…」
当時の彼がそんな風に思って私の傍にいてくれたことが嬉しかった。
だけど、同時に何か申し訳ない気もした。
愛「…ごめんね……なんか……」
そんな私に力は、
力「何で謝るんだよ。ん…けど俺は一緒に行けて良かったよ。今となったらいい思い出だしな?」
そう言って私を覗き込むようにして頭をクシャクシャっと撫でた。
力「ん……ホントはさ、中学三年の県大会の時、俺、祐がおまえのコトまだ好きだってコト知ってたんだ。」
愛「…え……」
力「けど……俺は許せなかったんだ。おまえにあんなに辛い思いをさせたアイツのことが…」
あの日を思い出すように彼の瞳は遠くを見ていた。
そして彼は唇を噛んでいて――
愛「…力……」
力「中学二年の時に祐にどんなことがあったか俺は知らねぇよ。けど、おまえにフォローするならいくらでも方法はあったはずなんだよ。それを一年間も辛い思いさせたまま放っておいて、一年後になっていきなり『ワケがあった』『話がしたい』なんてムシが良すぎんだってんだよ。けどな、俺、アイツがもし俺にその走りで勝ったら話くらいは聞いてやろうって思ってたんだ。でも、結果はおまえも知ってのとおり俺の勝ちだったけどな…」
あの県大会で力は言っていた。
もし自分が勝ったら『祐のことは忘れてくれ』と…。
そして、力は祐に勝った。
でも、あの時既に私の心の中で変化が起きていた。
祐とのあの出来事があった後の一年間というのは私と力の関係が変わるには十分な時間だった。
一年後のその時には私の力に対する見方は随分変わっていた。
私を傍で支えてくれている力の存在を意識した時、私は彼がどれだけ私にとって大切な人だったのかってことに気づかされて――…
そして、いつの間にか、私は彼に恋に落ちていた。
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