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力「俺はさ、祐がおまえを傷つけたあのトキに、もう祐には遠慮しねーって決めたんだ。ずっと俺はおまえがアイツの女だからと思って手の届く場所にいるってのに我慢してたんだ。まぁ、おまえは全然俺になんか興味なさそうだったけどさ。」
愛「…そんなこと……」
力「ん、それでも卒業するまでに気持ちだけは伝えてーなぁって……まぁ、ダメモトでだけどな…ハハッ…。けど、卒業式んトキ、おまえが俺のコトを好きだって言ってくれてさ、俺……スゲー嬉しかった。もちろん、祐のことを完全に忘れてねーことも分かってたし、これからもおまえの中に祐の存在はどこかに居続けるんだろうと思ったから俺はその思い出ごと引き受けようって決めた。けど、まさか、その祐がおまえと同じ高校にいて同じ陸上部にいるとは夢にも思わなかったけどな。」
そう言って、力はまいったというような顔をしながら髪をかき上げた。
力「しかも、おまえを迎えにきたとか言われたトキにはさすがに俺もマジでヤベーって思ったよ。おまえがまた祐に惹かれて戻っていくんじゃないかって…」
力が祐が同じ学校にいるということを不安に思っているってことは理解っていた。
でも私は力とつきあって彼を知れば知るほど好きになっていった。
近くに祐がいても――…
力「水月……祐はさ、何も変わってなかったよな?」
力が言うように祐は何も変わっていなかった。
もし彼に変化があったとしたら、あの中学二年のあの出来事のあった日だけだ。
それ以外は私に対してずっと祐は変わっていなかった。
力「相変わらずおまえを大事にしてておまえ一筋でさ。あのおまえを見る目を見ていたら俺、正直不安で仕方なかった。おまえもさ、祐のあの目に見つめられるとなんか身動きできなくなってたみてーだし?」
私は祐のあの瞳が好きだった。
初めて出逢った時、私は切れ長のその目をもつ少年に釘付けになった。
祐は私の『初恋』だった。
その瞳で見つめられると今でも私は彼に吸い込まれそうになるほどで――
愛「…ごめんね……力……でも、今は私……力のこと……」
力「分かってるって。けど、おまえは俺をちゃんと見ていてくれたよな?祐じゃなくて俺を見ようとしてくれた。今は俺との将来を考えてくれてんだよな?」
私は彼の顔を見ながら頷いた。
私の中ではもう祐とのことは過去のこと。
今はもう力との未来しか考えられないのだから。
力「だから、おまえが俺の気持ちに応えてくれたその想いは絶対に裏切るつもりはねーし、祐との勝負がどんなにリスクが高くて勝ち目がないって思われてても、絶対に勝ってあの大泉グループと祐を納得させて、今度こそおまえを堂々と俺のものにしようって思ってた。だからアイツとのあんな無謀な賭けにのった。おまえももう気づいてると思うけど、大泉グループってのはとんでもねーくらいバカデカい企業なんだよ。納得させる方法は祐からのあの勝負を受けるしかねぇ。まぁ、祐自身もあんまりキタネー手は使いたくないみたいなこと言ってたから、それなら少しでも綺麗な手段でおまえを手に入れようと俺は思っててさ…」
でも、いくらそれが綺麗な手段だからといって、私は賭けで自分の運命を左右されたくなかった。
しかも私の知らないところで――
愛「でも、私…そんな賭けでなんて……」
力「水月……あのな、いくら、おまえがアイツの元に行かないって言ったとしても手段なんて選ばないのがあのグループのやり方なんだよ。あの日の祐からの勝負を受けずにあのまま放っておいたら、俺はおまえを祐に渡さないといけない日をただじっと待ってるしかなかったんだぞ!」
愛「えっ……なに…それ?」
力「おまえはさ、祐の婚約者だからな。高校卒業したら必然的に祐と結婚しないといけなかったんだよ。」
愛「…うそ……」
力「嘘じゃねーよ。おまえんトコの祖父さんと祐んトコの祖父さんが勝手に決めやがって…。しかも正式な契約書もあるとか言ってたしさ…」
愛「だから……力は…そんな……」
力「俺はさ、おまえのいねー未来なんてもう考えられねーんだよ。俺はおまえにはこれからも俺の傍でずっと笑っていて欲しいって思ってる。祐みたいに俺はおまえに悲しい思いなんかさせねぇよ。あ……とか言いながら今は遠距離で離れ離れだからそういう意味で淋しい思いはさせてっかもしんねーけど………それはゴメンな?」
そう彼は申し訳なさそうに言った。
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