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彼は囲うようにして何度も私の頭を撫でてくれていた。
力「水月……ちょっと横になるか?」
そう言って彼はベッドの布団を捲った。
力「来いよ……」
伸ばされたその手をとると、彼は私を腕の中へと引き寄せた。
そして私に腕枕をするとそっと布団を被せた。
そんな彼の腕の中はいつもと同じで温かくて心地良かった。
愛「…温かい……」
力「風呂上がりだしな。もっとこっちこいって…」
私を更に引き寄せられて更に私たちは密着した。
力「おまえ冷えてるな。…ん…またいつ祐がおまえを必要とするか分かんねーからな。休んでおいた方がいい。眠れねーと思うけどさ、目だけでも閉じてろよ。」
そう言って背中に回したその手でコドモを寝かすようにトントンと叩きはじめた。
愛「…もう…子供じゃないんだからそんなことしなくても…」
力「そうだっけ?まだまだ知らねーことが多い『コドモ』だと俺は思ってたけど?」
そう言うと、力はいつもの悪戯な顔で私に笑いかけた。
その顔が私を安心させる。
力「河合等に聞いたんだけどさ。おまえ、祐に相当抵抗したって……俺の名前をずっと呼んでたって…?」
本当は彼を呼ばずに何とかしたかった。
彼に迷惑をかけることだけはしたくなかった。
そしてあんな姿を見られたくなんてなかった。
でも、知らず知らずうちに彼の名前が出てしまっていた私。
助けて欲しいとかじゃなくて、彼への申し訳なさと想い。
意識を失ったとしても力のことだけは失いたくなくて――…
愛「…うん……」
力「そっか…。ん、おまえにあんな辛い思いさせておきながらこんなコト言うのはあれだけど、俺、おまえが祐に抱かれそうになりながらも俺の名前を呼んでくれてたっての聞いて実はすげー嬉しかったんだ。」
愛「…えっ……」
力「しかもさ、おまえ、あんなことあってかなり動揺してただろうに、俺が池川に帰る前だからって、心配かけたくないからって必死で平常心保ってたんだろ?」
愛「…ぁ……え…それって…」
力「…クスッ…西野が言ってたよ。おまえ、スゲー頑張ってたってな。」
愛「由利ちゃん…が?」
力「あぁ。あんなおまえ初めて見たってさ。おまえのことスゲー感心してた。」
愛「…だって……大事な選手権前だったし…」
力が大切にしてきた夢が叶うためのその大事なステップである選手権予選。
しかも今年はエースとしての登板になる予定。
なのに私のせいで彼に絶対に心配なんてさせたくなかった。
力「全く…よくできた彼女だよ、おまえは。感謝してる。けどな、俺はあんなことがあったとしても暴投なんてぜってーしねーけどな。これからの俺達の為にも今度の大会はどんなことがあっても納得いく結果を出すつもりだからさ。おまえがさ、俺を想ってくれてることが何よりも俺の励みになんだよ。俺のこと思って言えなかったのは分かるけどさ、おまえがひとりで何かを抱え込んでるのを見たり感じたりするほうが正直俺は堪える。頼りねーと思うかもしんねーけどさ、もっともっと俺を信じてくれねーか?」
こんなことがあったと知れば力は絶対に許さないと思っていた。
下手したらキレなりとんでもない事件を起こしてしまうのではと心配していた。
でも、それは取り越し苦労だったのかもしれない。
私はもっと彼を信用していれば良かったんだ。
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